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Thursday, May 14, 2020

アフターコロナをより良い未来とするための“旅”を始めよう - 日経クロストレンド

たった一人の思いが、仲間を集め、未来を変えていく──。P&>やソニーで活躍した戦略デザイナー、佐宗邦威氏によるイノベーション実践の智慧をまとめた書籍『ひとりの妄想で未来は変わる~VISION DRIVEN INNOVATION』から、混迷の時代を生きるあなたへ送るエール。今回は第2章「【人】辺境に眠る妄想家に仲間との出会いを」からエッセンスを公開します。

(写真/Shutterstock)

(写真/Shutterstock)

コロナ時代を生きるあなたへ:著者からのメッセージ

 『ひとりの妄想で未来は変わる~VISION DRIVEN INNOVATION』を2019年12月に発売した。この本は、BIOTOPEが過去4年にわたってビジネスの現場で実践してきた、VISIONを起点にした未来創造の実践の知恵を紹介した本だ。

 その終章に、「団塊の世代が退場し、社会の世代交代が起こったとき、これまで述べたあらゆる問題は深刻化し、大きな変革が迫られる時がくる。天の時が訪れるまでの猶予の時間は、おそらくあと5年だろう。いままでアウトローでしかなかったイノベーターたちは、世代や環境の持続可能性という既存のシステムでは解決のしようのない大義をもつことで、一気に次代の主流をつくるリーダーになる可能性を秘めていると思う。僕らは、そこまでに十分な準備をしておかなければならない。」と書いた。

 既存のパラダイムが壊れた「有事」にこそ、自分の直感で動き、手足を動かして未来をつくれる人の出番だ。そして、僕の予想は覆された。まさか、オリンピックを前にこの有事が訪れてしまうとは……。歴史的な転換点において、僕らは自分の心の中の北極星を見据えて前に進み、少しずつでも未来をつくっていくことになる。その旅路の多少なりとも手助けになることを信じて、これから4回に分けて、本書の第2~5章で解説した創造のための4要素、「人」「場」「意志」「創造」についての序文を公開したいと思う。

 ここ数年、お題目では言われていた働き方改革。様々なリサーチを見てみると、10~20%の企業が在宅ワークに切り替えたという。外資系企業やIT、コンサルティングなどの一部の業種ではすでに取り入れられていたが、これだけの規模の企業が一気に取り入れるという意味では、地滑り的な変化だと言っていいだろう。本当に、「働き方改革をしなきゃいけなくなった」のだ。

 この変化は、どのようなものを生み出すだろうか? 僕の印象では、Zoomで打ち合わせをしながら、以前よりも大企業や組織に所属する方の表情が柔らかくなったり、打ち合わせで人間味が出てきたりするという変化があったように思う。これは、一言で言うと、仕事とプライベートという「公」と「私」が、以前は完全に切り分けられていたのだが、今は混ざり合ってきたのだ。

 この変化の兆しは今後、何をもたらすだろうか? リモートワークとオフィスワークのバランスを、多くの企業が模索していくことになるだろう。そして、大企業の社員や部長などの役割を演じていた人々の中に、自宅という私のスペースが生まれたことで、個人としての自分が現れてくるのだと思う。この自粛期間に各自が考えた「じぶんモード」は、新型コロナウイルスによる経済停滞という、僕らが生きてきたなかでも前例のない変化の時代を生きていくために、僕らの拠り所とするべきものだと思う。

 これから、前例のない未来をつくるジャーニーが始まる。そして、こういう時期だからこそ、一人ひとりがやりたいことのために、自らの妄想をたくましくし、企業内外の必要な人を巻き込んで新たな動きを起こしておくことが、アフターコロナをより良い未来とするための変化点のように思う。

妄想から始める「イノベータージャーニー」

 もし、あなたが「組織と人の能力は、どちらが優先されるべきか?」と問われたら、どのように答えるだろうか?

  • ①組織に貢献するために自分の能力をつける
  • ②自分の能力に合わせて、組織をつくり直す

 多くの人は、直感的に①と答えるだろう。しかし、これは時と場合による。

 すでにビジネスモデルができあがり、オペレーションを改善することで回っている組織の場合は“組織は、戦略に従う”のが一般的だ。トップが立てた戦略に合わせて組織構成を決め、役割に合わせてそれぞれ人をはめ込んでいく。それが多くの企業においては常識だろうし、そのなかで最大限に価値を発揮する動きをするのが、組織人としての矜持でもある。

 ただ、この考え方は、経営陣などの組織モデルの設計者がつくった仕組みがあり、人が部品として与えられた役割を果たすことが前提となる。こうした機械設計の世界観でつくられたモデルは、それを再現可能なかたちで回していく限りは、合理的だ。

 一方で、イノベーションの現場で実践を積めば積むほど、この常識が正しくないことに気がつく。既存の仕組みが立ち行かなくなっているなかで、新しい仕組みを創造する必要がある世界では、“戦略は、組織に従う。組織は、人に従う”。新規事業や、スタートアップの世界では、事業オプションが複数ある場合、事業性や会社の戦略適合性も重要だが、経営者や事業リーダーとの相性が合っているかどうか、というのが最終的に成功か失敗かに影響することが多い。

 ここでいう相性とは、その人のモチベーションや、好き嫌い、得意な戦い方などの特性を指す。新たなものを生むときは、人が自らの妄想を起点にした創造エネルギーを最大限に駆動することで、新たな価値を生み出す、という生き物の世界における法則が成り立つ。

 ここで難しいのは、組織は戦略に従うという世界では、部品として与えられた役割を全うすることを求められるため、誰が、どんな動機で、どんな世界をつくりたいか(=美意識)というような“主観”は出さないほうがいい。しかし、新しい取り組みに携わるようになった瞬間、これらの主観がその原動力になっていく。

 生き物は、シンプルなDNA配列を何度も複製しながら大きな個体をかたちづくっていくように、創造においては、プロジェクトを始める初期“言いだしっぺ”が誰で、どんな動機で、どんな世界をつくりたいかにより、ほぼ無意識に原型が決まり、それが何度も複製され、後々の事業や組織のかたちになっていくものだ。

 数多くのイノベーションプロジェクトを支援してきたが、経験則的に、うまくいくプロジェクトとうまくいかないプロジェクトの判断基準は比較的、容易だ。プロジェクトリーダーやメンバーが、「自分は××したい。なぜなら○○だから」という一人称で話す人が多いプロジェクトは成功し、「部門のミッションが××だから、○○する」というプロジェクトは非常に苦戦する。

 自分たちという“人”が最大のリソースだというマインドセットができているチームかそうでないかは、主語で見分けられるし、部品として過ごしていた人がこの主語で話をするOSのアップデートには少しステップが必要だ。

 現場の感覚では、イノベーションとは、ひとりの妄想を起点に、その熱意が必要なチームをつくり、チームの総力で数々の壁を乗り越え、最後まであきらめずに粘り強く取り組んだ結果、世の中に届いたものだと思う。ボトムアップ型の場合は、この主観で動く人であることは多いが、それでも、いままでの機械の組織のなかで動いていたOSを引きずってしまうことが少なくない。トップダウンの戦略によってつくられた特命チームによって進んでいくイノベーションプロジェクトでは、その主観の欠如がより起こりやすい。

 BIOTOPEで、ゼロから新たな構想を立ち上げ、イノベーションプロジェクト化して具体化する支援を数多くしてきた経験から、僕は大企業であっても主観を大事にする生き物型OSへの転換は時間をかければできると考えている。そして、もともとは一部の役割を果たす部品であった人がイノベーターになっていく成長段階を「イノベータージャーニー」と名づけた。まずは、それぞれのフェーズでどのように成長していくのかのモデルを紹介しよう。

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