写真はイメージです Photo:a-clip/gettyimages |
政府は14日、全国の39県で新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言を解除した。コロナ禍も出口段階という安堵が世間に漂い、街にも活気が戻りつつある。だが緊急事態が解除されようとされまいと、ずっと高い感染リスクを抱えて働き続けている人がいる。公共交通機関や医療機関などで働き社会基盤を支える「エッセンシャルワーカー」。その中でも脚光を浴びる機会が少なかった警備員は、実は医療関係者と変わらないハイリスクの業務を担ってきた。(ジャーナリスト 藤田和恵)
発熱者を丸腰で安否確認
「陰性でした」連絡で安堵
「一番恐ろしいのは、『熱が出た』『体調が悪い』という高齢者の自宅に駆け付けるときです。詰め所にあるパネルに警報発生のランプが点灯するたび、隊員たちの頭をよぎるのは『コロナ感染者だったらどうしよう』という不安です。後になって、(高齢者の検査結果が)陰性だったと知らされて初めて安心することができます」。そう打ち明けるのは、大手警備会社に勤務する40代の男性Aさんだ。
会社は1人暮らしの高齢者などを対象にした安否確認サービスを提供している。高齢者自身からの通報もあれば、室内に設置したセンサーに一定時間、反応がない場合に警備員が訪問することもある。平時であれば、高齢者にとっても、離れて暮らす家族にとっても心強いサービスだが、このコロナ禍の下ではコトはそう簡単ではない。
発熱といえばコロナ感染を疑わなければならない非常事態。なのに、Aさんら警備員には医療用ガウンも手袋もフェースシールドも支給されない。医療従事者からしたらあり得ない“丸腰状態”で駆け付けなければならないのだ。
Aさんは最近、「体が動かない」という90代の1人暮らしの女性からの緊急通報を受けた。せめてコロナ特有の呼吸器症状や発熱の有無を確認したいところだが、会社からは「コロナと関係なく、迅速なサービスの維持を」と求められている。警備員の出動は基本1人。感染防止対策としては必須の換気もなされていない室内に、1人で入らなければならない恐怖と緊張感には「慣れることはありません」。
マスクと除菌スプレーのみで
体調不良の高齢者に濃厚接触
室内では高齢者の様子を確認したり、介助したりするので、「濃厚接触」は避けられない。この時、Aさんが対応した女性は病院に緊急搬送された。対応を引き継いだ救急隊員は最近では感染リスクの高さが指摘され、出動時に防護服を着用することも増えている。この間、徳島市や奈良市などはすべての救急出動時に高性能マスクやゴーグル、シューズカバーなどでフル装備することを義務づけたほどだ。
消防庁は救急隊員のリスクを減らすため、ウイルスの拡散を防ぐカプセル型のストレッチャーの配備を進めている。自治体によっては、飛沫感染を防ぐため車内をビニールシートで覆った救急車を用意しているところもある。これが医療サイドの“常識”である。翻って、体調が悪いという高齢者の元に最初に駆け付け、最も高いリスクを負うはずのAさんら警備員の身を守るものは「マスクと除菌スプレーくらいでしょうか……」。
Aさんが勤務する詰め所では、3、4の両月で、こうした訪問が10件ほどあった。センサーに反応がないので訪問してみたら、すでに亡くなっていたというケースも数件あった。後になって、病院に搬送した救急隊員らから「コロナではなかった」との連絡があるが、「これもマニュアルに沿ったものではなく、心配する私たちを見かねた救急隊員が善意で連絡をくれる」のだという。
出勤している警備員は盗難や火災などの警報も含めて順番に出動するので、いつ、だれが高齢者の安否確認にあたるか分からない。たとえは悪いがロシアンルーレットのようなものだ。Aさんは「万が一、(高齢者が)コロナに感染していた場合は、戻ってきた隊員からうつる可能性もあります。呼び出しがあった時は詰め所全体が緊張します」という。
高齢者の安否確認に限らず、警備員たちの仕事は意外と幅広い。ビルの巡回警備や交通誘導、現金輸送のほか、個人宅に設置された火災やガス漏れ警報器の作動による訪問、マンションの受水槽や排水槽といった施設に異常が起きたときの初期対応、自動車事故や銀行の現金自動預払機(ATM)が故障した際の駆け付けサービスなども担っている。
Aさんの詰め所は住宅街のほか、繁華街などの地域も担当。飲食店やスーパーなどが休業したり、営業時間を短縮したりして人通りが少なくなっているので、夜間の治安が悪化している。最近は侵入や盗難による急行が増加傾向にあるという。
「先日も駆け付けたら、お店のガラスの扉が割られ、内部が荒らされていたということがありました。警報が鳴るのはだいたい深夜。1人で出動するので万が一(犯人と)出くわしたらという怖さもあります」
「出勤しないで」
妻も恐怖で懇願した
またこの間、意外と減らないのがATM関係の対応だ。会社は盗難や現金輸送だけでなく、出入金の際の故障やレシート装塡(そうてん)といった通常のメンテナンス業務も請け負っており、普段から頻繁に呼び出しがかかるという。緊急事態宣言発令後はさすがに利用者が減るかと思いきや――。
「全然、減っていないんです。行列ができていることも珍しくありません。みんながみんな、本当に緊急の入金や引き出しなのかなとは思ってしまいます」とAさん。
無人のキャッシュコーナーや金融機関が閉店した後のATMに落とし物がある時も、通報があれば出動しなければいけない。しかし、行ってみたら、ただのゴミだったり、手袋だったりしたことも。「こちらは不特定多数の場所に行けば行くほど感染リスクが高まります。中には翌日店舗が開店してから、(金融機関の職員が)対応しても問題ないケースもあります」。
Aさんは正社員で年収は500万円ほど。同じく正社員の妻は休業中で、会社からは休業手当も出ている。子どもも休校中。仕事柄とはいえ、あちこち飛び回っているのはAさんだけで、妻からは「できれば出勤しないでほしい。せめて交代勤務とか、出動回数を減らすとか、なにか方法はないの?」と言われるという。
しかし、会社が不要不急の出動を抑制したり、交代勤務を導入したりといった対策を講じてくれる気配は一切ない。最近も「感染に気を付けて警備の強化をしてください」という通達があっただけだ。Aさんにとって、せめて市民や利用者からの感謝の言葉が支えになっているのだろうか――。
これに対し、Aさんは「まったくない。少なくとも私は言われたこと、ないです」と苦笑いする。それどころか、ATMの故障対応では、平時と同じく並んでいる人から「まだ直らないのか」「いつまでかかるんだ」とせかされた。個人宅に駆け付けてみたら「室内には入らないでほしい」と拒絶されたり、「入るなら消毒してからにして」と言われたりしたこともあった。
Aさんは、あらゆる場所に出向かなければならない警備員がウイルスの媒介者として警戒されるのは当然だと思っている。そのうえで、こんなふうにこぼすのだ。「同じエッセンシャルワーカーでも、医療従事者や薬局の販売員の人たちと比べると、私たちの仕事は知られていないのかなと思います。いや、決して感謝の言葉がほしいと言っているわけじゃないですよ……」。
たしかにバスや電車の運転手、スーパーのレジ係と比べても、私たちが普段警備員の仕事を直接目にする機会は少ない。制服を着てビルの前に立つ姿はイメージできても、医療従事者並みの感染リスクを負いながら、高齢者の安否確認を担っている実態はあまり知られていないのではないか。
加えて警備員の賃金相場は高くはない。Aさんの年収500万円は業界でもトップクラスである。Aさんは「以前勤めていた別の警備会社では年収300万円台でした。今だって基本給は決して高くありません。毎月60時間は残業をこなしてようやくという感じです」という。
「私たち警備員もコロナと
闘っていると知ってほしい」
警備員らの残業代の未払い問題などを手掛けている労働組合プレカリアートユニオンの清水直子執行委員長によると、基本給が低いのは警備業界の典型的な賃金構造だという。さらに、中小の会社になると、残業代を含めても年収200万円台というケースは珍しくない。清水執行委員長は警備員の雇用環境について次のように説明する。
「正社員でも基本給が低く抑えられています。このため業界は慢性的な人手不足。長時間の残業をこなしてやっと生活できるという人も多いです」
雇用環境も良いとはいえない。取材で話を聞く警備員は契約社員や派遣社員といった非正規雇用のほうがむしろ多い。最近では、会社の指示の下で業務に就いているのに、契約は業務委託という“名ばかり事業主”も増えていると聞いた。「警備の質に関わる」という謎の理由で、マスクの着用を禁止している会社もある。
コロナ禍でエッセンシャルワークに就きながら、こうした警備員の声が聞こえてこないのは、不安定雇用に加え、社員が取材に応じたり、労働組合に入ったりすると、会社が徹底的に“犯人捜し”をするからだともいわれている。そのリスクを冒しながら話を聞かせてくれたAさんはその理由をこう語る。「私たち警備員もコロナと闘っていることを知ってほしかったんです」。
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コロナ禍を受けた緊急事態宣言は「出口段階」を迎えました。ここから先の課題は、コロナショックで打撃を受けた仕事への対策です。ダイヤモンド編集部は、アフターコロナ時代の雇用や賃金をテーマにアンケートを実施しています。https://bit.ly/diamond_coronaから、ぜひご回答をお寄せください。
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
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May 15, 2020 at 04:00AM
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