日本サッカー協会の宮本恒靖会長が、テレビ東京系列のサッカー専門番組「FOOT×BRAIN」に出演。日本の審判のレベルアップについて語り話題となりました。
「審判のレベルをもっと上げなければならないというのは、日本サッカー協会もJリーグも感じているところなので『プロフェッショナルレフェリーの合宿みたいなもの』の回数を多くしたり、若いレフェリーをいかに育てるのかのところだったりも、やらなければいけない。」
放送が終わり、ネットで記事が掲載されると、多くのファン・サポーターが「審判のレベルをもっと上げなければならない」に共感を覚えました。
今回は「プロフェッショナルレフェリーの合宿みたいなもの」に密着し、日本の審判員の置かれた現状を考えました。浮かび上がったキーワードは「数字」「ブラック&ホワイト」「レベルアップ」「理解される」です。
根拠は数字 厳しく評価されている審判員
「山下(良美)、坊薗(真琴)、手代木(直美)、この3人は男性の審判でも大変な数字を超えてくる。」
日本サッカー協会 審判委員長の扇谷健司さんは、ピッチでのトレーニングを見学しながら3人の審判員のアスリート能力の高さを強調して話しました。トップリーグの試合で主審が走行する距離は約13キロメートルといわれています。
コンマ1秒で合格ラインが設定されているフィットネステスト
あまり広く知られていませんが、審判員が高いディビジョン(カテゴリー)の試合を担当できるかどうかはテクニカルの評価に加え体力面が数字で評価されます。J1・J2・J3を担当するすべての主審と副審 は年に1度のフィットネステストをクリアする必要があるのです。
フィットネステストの内容はスピードテストとインターバルテストの2つ。スピードテストとは40m×6回を6. 0秒以内に走ること。インターバルテストとは75m走15秒+25m歩18秒を40回クリアすること。審判員には瞬発力と持久力の両方が求められるからです(副審のフィットネステストは距離とタイムが異なります)。
ちなみに、この数字は、2024年2月まで存在した「女子1級審判員資格」に求める数字よりもかなり厳しく、それが、Jリーグを担当する女性の主審が少ない要因の一つになっています。山下さんは主審の基準を、坊薗さんと手代木さんは副審の基準 をクリアしているのでJリーグを担当することができます。
審判アセッサーにより各試合のパフォーマンスが採点される
Jリーグ、WEリーグでは、各試合を担当する審判アセッサーが試合における審判員のレフェリングを10点満点で評価します。この評価点は審判員の育成・強化事業へ活用されるだけでなく、審判員が担当するディビジョンの決定や試合への割当等を検討する際の資料になります。
走行スピードを測定し指導に活用
試合を担当した審判員への指導に、審判委員会は具体的な数字を用います。実際の例として、このような指導もありました。
「フィットネステストのデータを参照すれば、あなたはこの時間帯でも時速○○キロメートルで走れるはずですが、このとき時速○○キロメートルで移動しました。その結果、適切なポジションへの移動が間に合わず、正しくPKかどうかの見極めをすることができませんでした。」
「ブラック&ホワイト」 逆にジャッジには黒と白とグレーがある
数字で管理・指導をしているのとは裏腹に、本来、ジャッジ自体は白黒で割り切れない曖昧なものなのですが、これまで多くの誤解がありました。
「最初のカードでこの試合の『カードの基準が決まる』」は誤解
例えば、日本サッカー界の伝説のようなものの一つに「最初に出されるイエローカードで、この試合のカードの基準が決まる」という言い伝えがあります。これについて扇谷委員長に聞いてみました。すると、その言い伝えは明確に否定されました。
「一つのジャッジで基準は決められないです。ファールにはいろいろな種類があります。タックル(トリッピング)、プッシング、ホールディング……それを一つのタックルで『これレフェリーはここまで大丈夫』と把握するのは、正直、選手も難しいと思います。」
サッカーの競技規則には「『ここからこっちがファールでここからこっちがノーファール』とは書かれていません」と扇谷委員長。審判員は「ブラック&ホワイト」という単語を使うことがあります。判定には黒と白、そして、その間に、どちらとも言い切れないグレーの領域が存在するという意味です。
多くが全会一致の結論に至らないジャッジをめぐるディスカッション
プロフェッショナルレフェリー(PR)が集まりJリーグで生まれたイエローカードを伴う難しいジャッジの事象の動画を見ながらディスカッションを行うと、その多くが全会一致の結論に至りません。ある反則を巡っては、知名度の高いプロフェッショナルレフェリー(PR)2名が、全く逆の見解を示したこともありました。
ペナルティエリア内の接触でPK判定とならなかったことが話題となった、ある試合の事象では、意見したプロフェッショナルレフェリー(PR)は全てノー・ペナルティと表明。その場に同席した報道陣からは逆に「PKではないか?」という意見もあり「PKか?ノー・ペナルティか?」でディスカッションは進みました。
しかし、ディスカッションの最後に、審判交流プログラムで来日中のダレン・イングランドさん(イングランド)がプレミアリーグで主審を担当する立場から「これは『クリアなシミュレーション』だ」と話しました。そのとき、カンファレンスルームがどっと湧きました。
プレミアリーグを観戦するファン・サポーターが求めるサッカー(フットボール)の面白味はJリーグを観戦するファン・サポーターが求める面白味と一致しない部分があるといわれています。そのためか、プレミアリーグの基準が身についているダレン・イングランドさんから全く異なる見解が現れました。この流れから分かるように、微妙な判定の多くは白か黒かを第三者が断定しにくいのです。
つまり、宮本会長の言う「審判のレベルをもっと上げなければならない」は「誤ったジャッジを減らす」という白か黒かの視点だけではないことがわかります。
より良いジャッジにするために必要なこと
かなり前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。ここまでご紹介してきたプロフェッショナルレフェリーのコメントとディスカッションの様子は全て、宮本会長の言う「プロフェッショナルレフェリーの合宿みたいなもの」から書き出しています。正式にはプロフェッショナルレフェリー(PR)トレーニングキャンププロフェッショナルレフェリー(PR)トレーニングキャンプといいます。
プロフェッショナルレフェリー(PR)トレーニングキャンプの開催回数を増やしたい審判委員会
今回、取材をしたのは2024年6月19日と20日に高円宮記念JFA夢フィールドで行われたプロフェッショナルレフェリー(PR)トレーニングキャンプの1日目です。16時までカンファレンスルームでディスカッション。その後、ピッチに出て約60分間のトレーニングが行われました。
現在、審判委員会は、プロフェッショナルレフェリー(PR)トレーニングキャンプを1ヶ月に1回のペースで開催しています。これを、できれば2週間に1回程度に増やしたいと考えています。そしてプロフェッショナルレフェリーを増やしたいと考えています。
理由は日本の審判員のトップ・ポジションにあるプロフェッショナルレフェリーの技術レベル、体力レベルを向上させることです。そして、プロフェッショナルレフェリーの人数を増やすことで、大会レベルに合わせたトレーニングやディスカッションを経験する審判員を増やし、全体のレベルアップにつなげていきたいと考えています。
アマチュア審判員によるレベルアップの限界
アマチュアの1級審判員の多くは、各自が仕事を持っているため、試合開催日以外の日にトレーニングキャンプに参加することが困難です。日頃から個々によるトレーニング(活動地域ごとの審判員による合同のトレーニングを含む)を実施しています。しかし、それでは、技術、体力両面ともレベルアップに限界があります。ファン・サポーターや監督・選手、そして、審判委員会が「レベルアップしましょう」と号令をかけても、トレーニングの質と量が向上しなければレベルアップのペースが早まりません。
一緒に汗を流す仲間がいることで上がるトレーニングの強度
中村太さんは2022年からプロフェッショナルレフェリーになりました。以前のアマチュア時代と違い、プロフェッショナルレフェリー(PR)トレーニングキャンプで一緒にトレーニングできる仲間がいることでレベルアップを実感できると言います。
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