[東京 15日 ロイター] - 円債市場で無難に通過したとされる今週の5年債入札や20年債入札について、「薄氷」の結果との受け止めが市場の一部にある。早期マイナス金利解除への思惑が台頭する中で、投資家層ごとにリスク管理の観点が異なり、年限によって需給に差が出始めている。
<共担オペが救い、銀行や海外勢に買いづらさ>
5年債入札や20年債入札は無難に通過したが、市場では「(5年債入札は)日銀の5年物の共通担保オペの実施がなければ、手控えられた可能性が高い」(外資系証券ストラテジスト)との見方が出ている。
植田和男日銀総裁のインタビュー記事をきっかけに金利上昇圧力が強まった11日、日銀は5年物の共通担保オペ実施を通知した。共通担保オペは、応札すれば5年債利回りよりも低い金利で日銀から資金を借りることができ、金利収入を得ることができる。国債購入を促し、スワップ金利を低下させることで、国債金利を低下させる効果がある。
12日の5年債入札は応札倍率が前回入札を上回るなど、無難な結果と受け止められ、中期ゾーンを中心に金利が低下した。
以前は利回り確保目的で「全員参加型」と言われていた20年債も、20年以下の金利水準が上昇しているほか、金利上昇リスクを抑えるための年限短期化の動きがある。「参加者が乏しく、銀行勢の参加がなれば入札を通過したとしても買いは続かない」(国内証券債券セール担当)との声がある。
マイナス金利の解除を警戒しなければならない状況が生まれたことで、リスク管理が必要な投資家層にとっては、国債を買いづらい地合いが続くとみられている。特に銀行勢や海外勢は金利の方向感に対する感応度が高く、金利先高観がある足元で、手控えが目立っている。
各年限ごとの需要の濃淡は、8月ごろから見え始めていた。日銀の田村直樹審議委員の発言 もっと見る を受けて、銀行勢は新発2年債を大量に売りに出した。担保代替やキャッシュつぶしとして選好される年限で、ある国内証券の債券セールス担当は「入札の翌日にわざわざマイナスで売るというのは驚きだった」と話している。金利上昇への警戒感から投資家の目線が定まらず、9月初旬の10年債入札も弱い結果だった。
一方、30年債や40年債は、生保や年金勢が投資家層の中心となる。9月20日の大量償還を控えて、絶対水準の目線を持つ生保勢による買いや、リバランス目的の年金勢の買いが前倒しで入っているとみられ、底堅い需要が確認されている。
<円安が早期解除観測を誘引>
読売新聞が報じた植田日銀総裁のインタビューを受け、1年物の円のオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)は14日に一時0.075%まで上昇。足元でも0.05%半ばで推移している。
1年後の市場予想として無担保コール翌日物がゼロ%を超えていることは、1年以内の日銀会合での利上げや、その先の利上げサイクルを織り込み始めていることを示唆している。
足元の新発10年債金利のフェアバリューは0.7%ー0.8%が市場のコンセンサスだ。日銀の国債買い入れを踏まえると0.7%付近との見方が多い。日銀が9月1日に公表した8月の債券市場サーベイでも、23年12月末時点の新発10年債金利の平均値は0.73%。フェアバリューの上限に近づいてくれば、国内投資家の買いが戻り、相場が落ち着く可能性がある。
マイナス金利解除となれば、新発10年債金利のフェアバリューは1.0%以上との見方が多い。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは「マイナス金利解除を見込む市場参加者が増えれば、買い手控えが続く」とみており、金利は上振れか高止まりしやすい状況が続くと話している。
外為市場では、ドル/円が再び147円半ばまで円安方向に振れている。ニッセイ基礎研究所金融研究部の福本勇樹金融調査室長は「日銀の早期マイナス金利解除を誘うような形で円安になっている」と指摘する。コストプッシュで物価が高まって賃金の上昇圧力がかかることを通じて、マイナス金利解除の蓋然性が高まるとの連想につながるという。
モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一エクゼクティブディレクターは、足元では海外勢が短期の金利スワップ市場で、ショートを一段と積み増す動きがでているとし「インフレがオバーシュートし、欧米中銀が積極的な利上げを余儀なくされたのと同じシナリオを、日銀に対してみているようだ」と指摘している。
(坂口茉莉子 編集:平田紀之、石田仁志)
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