[ワシントン/パリ 19日 ロイター] - 米国はここ2年ほど、2015年のイラン核合意の復活に向け、交渉を試みては失敗してきた。だが米国政府も、同盟関係にある欧州諸国も、交渉の扉を閉ざそうとはしていない。
理由としては、他のアプローチには危険が伴い、イランに対する軍事攻撃がもたらす結果は予測困難で、イラン政府の方針を変えさせるための時間的余裕はまだ残されているという信念があるからだ。当局者によれば、イランが核分裂性物質の製造に少しずつ近づいているとしても、まだそこには到達していないし、爆弾の製造技術もまだ習得していないという。
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は、前週ブリュッセルで開かれたEU当局者との会合の後、「イランが核兵器開発を行わないことを保証するために、包括的共同行動計画(JCPOA)よりも良い選択肢があるとは思わない」と述べた。イラン政府は2015年に策定されたJCPOAに基づき、経済制裁の緩和と引き換えに核開発計画を抑制することになっていた。
「合意復活に向けて、可能な限り関与を続けなければならない」
だが今年、復活に向けた坂道はさらに険しくなった。イランは市民による抗議行動を暴力で弾圧し、核開発計画を加速し、ウクライナ侵攻ではイラン製ドローンがロシアを支援した。いずれの動きも、対イラン制裁を緩和した場合、政治的な代償が大きくなる可能性がある。
シンクタンクのブルッキングス研究所に所属する核不拡散問題の専門家ロバート・アインホーン氏は「合意復活にとって今は最悪のタイミングであり、イランの不幸な体制への圧力をかけ続ける方が先だという評論家の意見が日に日に増えている」と語る。
「合意復活を強く支持する人の間にすら、ある種の諦めがある。気持ちの上では、政治的な代償を払ってでも復活させたいと思っていても、頭の中ではそれが実に難しい選択だと分かっている」
<許容できない一線は「90%濃縮」>
2018年、トランプ前米大統領は2015年のイラン核合意から離脱した。この合意の重要な条項の1つが、イラン政府によるウラン濃縮度の上限を3.67%に制限するというものだ。核兵器に転用可能な濃縮度とされる90%をはるかに下回る。
トランプ前大統領が対イラン制裁を再開したため、イラン政府はそれまで禁じられていた核開発計画を再開した。米国、欧州、そしてイスラエルでは、イランが原爆製造を目指すのではないかという懸念が再燃したが、イランはそうした野心を否定している。
イランは現在、フォードウ工場などでウランを60%まで濃縮している。この工場は山岳の地下に作られ、爆撃による破壊は困難だ。
核兵器製造における最大の課題は核分裂性物質の入手だと考えられているが、それだけではない。特に、核爆弾の設計という技術的な難関は大きい。
2007年末に情報開示された米情報機関による推測では、確度の高い評価として、イランは2003年秋まで核兵器開発に取り組み、そこで中断したとみられている。
複数の外交関係者によれば、「越えてはならない一線」とされる90%までの濃縮には着手していなかったと考えられるという。
西側の外交関係者は「イランによる核兵器計画の再開が明らかになり、90%濃縮を行うならば、米国や欧州、イスラエルにおける論調はがらりと変わるだろう」と語りつつ、そうならない限り、外交による交渉の扉は開かれていると述べた。
米国の政治家の間では、イラン相手に妥協することへの反発が高まっている。今年9月、クルド系イラン人女性マフサ・アミニさん(22)が風紀警察による拘束後に急死。これをきっかけに同国全土で始まった抗議行動に対し、容赦ない弾圧が行われているためだ。
バイデン米政権はここ数カ月、イランへの制裁を強化しており、イラン産原油の輸出を支援する中国企業を対象とするほか、人権侵害を理由としてイラン当局者を制裁対象に加えている。
だがバイデン政権の高官によれば、交渉は難航しているものの、イラン核問題を巡る協議の調整に当たるEU外交官のモーラ氏は「あらゆる当事者との対話を続けている」という。
米国のイラン担当特使であるロバート・マレー氏は、前月のパリにおける記者会見で「圧力はかけ続けるが、外交交渉へのドアは開けたままにしておく」と語った。イランの核開発計画が「新たな段階へと踏み込むならば、対応は明らかにこれまでと違うものになるだろう」とも述べたが、詳細については触れなかった。
イランは核合意復活の条件として、3拠点におけるウラン濃縮の証拠に関する国際原子力エネルギー機関(IAEA)の査察の終了を挙げているが、米国とその同盟国は受け入れていない。
<JCPOA破綻後の外交交渉は>
西側諸国の複数の外交関係者は、対イラン軍事行動は差し迫った検討の対象にはなっていないとの見方を示す。そうした攻撃は、イランの核兵器獲得のもくろみをあおり、報復を招くリスクが生じると示唆している。
ある西側外交官は「近い将来の軍事的な選択肢を想定する人は、いないのではないか」と語る。「軍事的作戦は打開策にならないだろうし、求める声は多くない」
別の外交官は、イスラエルがイランを爆撃するのは、西側諸国からの支援がない限り現実的には不可能だと考えていると語った。
バイデン政権の高官は、2015年の核合意の復活が不可能だとしても、それ以外の外交的な解決策は可能かもしれないとの見方を示した。
「JCPOA復活の可否、その時期や方法については答えにくい」とこの高官は言う。「しかし、いずれかの時点でJCPOAを諦めるとしても、直ちに外交による解決を葬り去るという意味にはならないだろう」
(Arshad Mohammed記者、John Irish記者、翻訳:エァクレーレン)
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