2019年以来、3年ぶりに鈴鹿サーキットがF1に復帰した。ドライバーやファン、チーム関係者はこぞって歓喜・絶賛した。そして海外のジャーナリストはこの素晴らしいサーキットが失われないよう「戦わなければならない」とF1に警告した。
伝説的なジョン・フーゲンホルツによって設計された鈴鹿は1962年の完成以降、60年に渡って当時の姿を殆ど保ったまま数々の歴史を育み続けてきた。
F1カレンダーの中で唯一無二の8の字型レイアウト、誰もが笑みを浮かべる高速のS字、デグナー、130R。ここでのグランプリレースの歴史と熱狂的なファン、そしてそんな彼らが作り出すこのスポーツに対する愛情が鈴鹿を世界最高のサーキット足らしめている。
新型コロナウイルスの大流行により鈴鹿と日本は2020年と2021年のF1カレンダーから姿を消した。F1ドライバー達は待ち望んだ鈴鹿と日本GPの3年ぶりの復帰への興奮を隠さなかった。
残念ながら初日はウェットコンディションとなったものの、鈴鹿の素晴らしさは雨でさえ失われない。
ホンダドライバーとして初の日本GPに臨むセルジオ・ペレス(レッドブル)は「たとえウエットでも、ここが世界最高のサーキットである事は間違いない」と評した。
この手の賛辞の場合は大抵「one of the~」とのエクスキューズが用いられるが、ペレスは「It’s the best track in the world」と言い切った。
また、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は「最初の1周はいつも特別だ。すべての伝説に想いが至るんだ」と述べ、鈴鹿を舞台に繰り広げられてきた数々のドラマに言及した。
「アイルトン(セナ)と(アラン)プロストのクラッシュやターン1、数々の歴史がある各々の場所を通りながら最終シケインへと向かう。こうして鈴鹿を走れることがどれだけ特権的かって事を思い知らされる」
今季末限りでのF1引退を表明したセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)にとって、2011年のタイトル制覇の舞台となった思い出溢れる鈴鹿を走るのは今回が最後となる。
鈴鹿への愛情が強すぎるあまりに、将来的な日本のレースへの参戦の可能性も否定しないベッテルは「この土地にあるすべてのものが特別。コースはもちろん。きっと神様が設計したんだろう。神様がね」と言って憚らない。
「そこかしこで、誰もが鈴鹿について話をしてる。ファンがその雰囲気と情熱を更に高めてくれる。それが僕らを特別な気分にさせるんだ。寂しくなるよ。間違いなくね」
「(引退を)後悔しているわけじゃないし、レースを楽しみにしてるんだけど、これが最後だという事が少し悲しいんだ」
「ここが大好きなんだ。鈴鹿を愛してる。ここでは、より生き生きとしているように感じられるんだ。クルマと格闘しながらファーストセクターに飛び込むと、毎回、満面の笑みが溢れてくる」
温かい日本のファンからのサポートの多さに触れて35歳のドイツ人ドライバーは「ドイツ国旗がないドイツグランプリのようだ」とも語った。
かつて年間20戦以下だったF1は、2023年に史上最多となる24戦が開催されようとしている。文化立国を目指す新興国やアメリカ大陸など、F1には世界各国からの開催オファーが絶えない。これに合わせて開催権料は上昇傾向だ。
1シーズンに開催可能なレース数は物理的に限りがある。F1は新たな市場の開拓に勤しんでおり、鈴鹿のような古典的なサーキットはカレンダー脱落の危機にさらさている。スパ・フランコルシャンは勿論、モナコでさえもその例外ではない。
サウジアラビア、バクー、マイアミ、バーレーン、ラスベガス…近年追加された新たなグランプリコースは興行重視のストリートサーキットばかりで、その性質上、鈴鹿のような突き詰められて設計されたコースとは異なり、どうしても妥協が生じてしまう。
F1ジャーナリストのエド・ストローは「三重県が誇るアイコニックなこのコースの復帰は、失わぬようF1が戦わなければならない事を思い出させるものだ」と警告する。
「このようなキャラクターとスペクタクルを持つサーキットが再び建設される事はないだろう。なんともったいないことか」
「結局のところ、F1が今日のような強力なブランドに成長したのは、鈴鹿のようなサーキットがあったからだ」
「鈴鹿は単なるサーキットではない。2007年と2008年の富士スピードウェイへの短期間の変更が我々に思い出させたように、鈴鹿は特別なものなのだ。戦わなければならない」
鈴鹿とF1との日本グランプリレースの開催契約は2024年末まで。鈴鹿サーキットは「ファンの皆様に驚き、喜び、感動をお届けできるよう、歴史と伝統を振り返りながら、未来に向けた新たな挑戦を行ってまいります」としている。
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