日本はバブル崩壊の衝撃が大きすぎて立ち直れない時期がずっと続いた。デフレが20年も30年も続く異常な国になってしまった。安倍晋三元首相はそこに強烈な処方箋を書いた。デフレ脱却の最大の処方箋が「異次元の金融緩和」だ。
経済を再生させる設計図
第2次安倍政権前の民主党政権下では名目賃金が上がらなくても実質賃金が上がればいいという考え方があった。しかしデフレ容認とも誤解されかねない、この考え方は危険だ。投資をしなくても、デフレだからおカネは持っているだけでその相対的価値が増えるとすれば、国内総生産(GDP)を拡大する必要がなくなる。おカネを動かさないとおカネの価値が下がる経済に戻さなければならない。これが異次元の金融緩和の狙いだ。
ただそれだけでは終わらない。おカネを動かすためには、GDPギャップ(国の経済全体の総需要と供給力の隔たり)、つまり需要の不足を解消しなければならない。民需が伸びないのであれば、公需で需要を作るというのが、2本目の矢と言われた「機動的財政政策」だ。
その次が、3本目の矢である「成長戦略」だ。将来のあらまほしき姿への課題をあぶり出し、それに向けて規制緩和や減税政策、あるいは財政政策で日本経済の本体である民間投資を喚起する。対中小企業の財政政策の典型的なものが、民主党政権下での「事業仕分け」で一度は廃止された「もの作り補助金」だ。もともと収益があがっていない中小企業に対して減税政策をとっても効果は上がらず、投資に回らない。だから補助金を出して、投資を促せば生産性が上がり収益も上がる。よって投資をしてくださいとお願いした。大企業や中堅企業には投資を誘導する減税政策をした。
続けて一の矢、二の矢、三の矢と、経済を再生させる設計図を作った。これがアベノミクスだ。
利益は積み上がったが
政権交代前は円が1ドル=80円台にまでなった。日本の経済の実態からいえば過大評価もいいところだ。その結果、国内生産は輸出に不利となり、生産拠点が海外に移転する産業の空洞化がおき、雇用がなくなった。
アベノミクスの金融緩和で円安に振れ、円が適正レートに戻った。すると輸出企業が競争力を持てるようになり、輸出産業を中心に利益が積み上がってきた。
問題はその利益を企業がどうしたかだ。我々は設備投資、研究開発費、下請け企業への支払額の改善、賃金上昇に回してくださいとお願いした。
ところが投資が進まない。値段で勝負するコストカット経営が続いた。世界中の企業が「いいものだから買ってください」という付加価値経営をしている時に、日本の企業は「安いから買ってください」というコストカット経営をしている。下請けをたたき続け、賃金も上げないデフレ経営だった。これが最大の課題だ。
守りに入ったまま
バブル崩壊後、「債務の過剰」「設備の過剰」「雇用の過剰」という三つの課題解決が再生への道と言われた。そのためバブル崩壊後の企業はただひたすら効率経営を追求し、コストを最小化することで生き残ってきた。次のステージでは打って出なければならないのに、その成功体験でずっと守りに入ったままだ。
いくら我々が投資をしたら減税をする、賃金を上げたら減税をすると言っても、経営者は「これまでカネを出さないで切り抜けてきたからおカネはためておこう」という考えから脱しきれない。このマインドをリセットしなければならない。
昨年末の税制改正大綱に「日本の経済界にはアニマル・スピリッツが足りない」と書き込んだ…
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