ロシア軍がウクライナ東部のルハンスクに集中砲火を浴びせている中、近隣のドネツク州バーフムトで先月31日(現地時間)、爆撃を受けた穀物倉庫が燃えている=バーフムト/ロイター・聯合ニュース
ウクライナの友人たちがこの文を読んだら、「汚い偽善者」と激しい非難を浴びせるかもしれない。
周知のように、ウラジーミル・プーチンが2月24日、ウクライナに侵攻してから、人類は言葉では言い表せない「複雑なジレンマ」に陥ることになった。武力を通じて欧州の現状を変更しようとするプーチンの「暴挙」は、第2次世界大戦以後、人類が築いてきた秩序への挑戦に違いない。ウクライナ人たちの涙ぐましい闘争によって、キーウを一気に陥落させ、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を「斬首」した後、戦争を早期終結しようとしたプーチンの計画は水泡に帰した。徹夜で初期戦況を見守っていた開戦二日目の夜、キーウの夜の街に指導部を集めて「私たちはここで私たちの独立と国を守っている」と国民を安心させたゼレンスキーの姿を今でも鮮明に覚えている。
その後、米国と欧州の軍事支援を追い風にウクライナ人たちの激しい抵抗が続いた。しかし、4月中旬頃、主戦場がキーウ周辺から東部ドンバスに移ってからは、ロシア軍の優勢が明らかになっている。ロシア国防省は5月20日、東南部の要衝地マリウポリを「完全制圧した」と宣言し、相次ぐ集中攻勢で東部のルハンスク州の95%を掌握した。
ウクライナがロシアの「不義の攻撃」をあっさり撃退することを望んでいながらも、複雑な心境にならざるを得ないのは、プーチンが開戦以降、核兵器の使用可能性をちらつかせ、露骨で厚かましい脅しを繰り返しているためだ。プーチンが開戦四日目の27日、「核抑止力部隊に特殊警戒態勢に突入すること」を命令してから、ロシアの当局者たちは「自分たちが存立を脅かされる状況」に至れば、核を使用できるという脅しを続けている。彼らの言う「存立を脅かされる状況」が何なのか、正確には分からないが、戦争が「巨大な失敗」に終わり、ロシアの国家的威信が取り返しのつかないほど損なわれ、プーチンの政治的立場が決定的に危うくなる時ではないかと思う。ゼレンスキーが小さな戦闘で勝利すればするほど、人類全体が核戦争に直面する危険性が高まるわけだが、この困難な状況を「複雑なジレンマ」以外にいかなる言葉で説明できるだろうか。
ニューヨーク・タイムズが5月19日付の社説で、「戦争が新しく複雑な局面」に突入しているとし、「ロシアとの全面戦争(all-outwar)に乗り出すのが米国の最高国益ではない」と指摘した後、いわゆる「キッシンジャー-ソロス論争」に火がついた。ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が5月23日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)で、さらに大きな悲劇を防ぐためにはウクライナが「領土の一部」をロシアに切り離して妥協すべきだと発言したことを受け、翌日にはジョージ・ソロスが「文明を守る最善の方法はできるだけ早くプーチンを打倒すること」だと声を高めた。欧州の大国であるドイツやフランス、イタリアなどが現実主義者キッシンジャー側に、ロシアの安保脅威にさらされているポーランドやバルト3国などがソロス側に立ち、この論争は欧州を容赦なく二分している。
落ち着きを取り戻し、気を引き締めようと、最近日本で「話題のベストセラー」となった大木毅の『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』を開いた。1941年6月に始まり4年間続いた独ソ戦は、ある人間集団が他の人間集団を絶滅しようとしたが、「手厳しい反撃」に遭い、失敗した戦争と要約できる。この戦争の最大の特徴は、「ナチズム」(ドイツ)と「ボリシェビズム」(ソ連)が共存を拒否し、相手を地球上から除去しようとする「世界観の戦争」を繰り広げたという点だ。そのため、ヒトラーはスターリングラードとクルスクで決定的な敗北を喫し、勝利の希望が消えた後も交渉で戦争を終わらせようとしなかった。そのため、人類、特に女性たちが強いられた苦痛については、ここでは取り上げない。私たちは、時には「悪魔」とも妥協しなければならない。
現在の戦況を冷静に見渡す限り、ロシアが2014年3月に合併したクリミア半島と集中攻勢をかけているルハンスクとドネツクをウクライナが実力で取り戻せるとは思えない。 奇跡が起きてこれらの地域を奪還することになれば、欧州で「核戦争」が起きる可能性もある。「すでに占領された独島(日本名・竹島)を日本に渡せ」と言われるような憎らしい話かもしれないが、3月末のイスタンブールで行われて以来、しばらく中断されてきた平和交渉を再開しなければならない。
//ハンギョレ新聞社
キル・ユンヒョン|国際部長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
訳H.J
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