『嫌われる勇気』の著者で、哲学者の岸見一郎氏がリーダーのあり方を説く連載の第38回。コロナ禍がそうだったように、これから起こることを予見するのは容易ではない。それでもリーダーに求められるのは「予見の能力」と岸見氏は言う。
人生を論理的に回顧することはできるが、論理的に予想することはできないとキム・ヨンスは小説の中の登場人物に語らせています(『世界の果て、彼女』)。
成功者は今の成功を語る時、過去の挫折体験を語らないか、その体験を美化したり誇張したりします。人生を回顧する時に、どんな体験も無駄ではなかったと思いたいという願望が入り込み、自分の成功を論理的に説明できない過去の体験や出来事は捨象してしまうのです。
目下、世界で起こっていることも論理的に説明できません。新型コロナウイルスによって世界の多くの人が亡くなっているというようなことは非合理の極致であり、そこに何らの意味も見出だすことはできません。
人生や世界で起こることは合理的であり意味があると考える人は、そのように見るために論理的に説明できないところを捨象しているのです。しかし、起こることは合理的であるべきだという願望を持ち込んでしまうと、起こっていることについて正しく判断できなくなります。
これから起こることについて予見することは容易ではありません。新型コロナウイルスが人類の生活を一変させることになると誰が予想していたでしょう。
すべてのことが過去や現在の延長上で必然的に起こるのであれば、未来を正確に予見することは困難ではありませんが、思いもかけないことが起こるのです。
しかしそうであっても、指導者(リーダー)に求められるのは「予見の能力」であり、「予見することができない者は真の指導者であることができない」と三木清はいっています(「指導者論」『哲学ノート』所収)。
事態を正確に見通すことは困難であり、従来の常識で判断できないものもあります。「しかしそれだからこそ指導者が要求される」という三木の言葉を読むと、コロナ禍の今の時代に必要とされるリーダーの資質を三木が語っているように思えます。
必要なのは、知識と科学、さらに直観です。ただ何が起こっているのかを知るだけでは十分ではありません。難局を打開するためにはこうすることが必要だという直観とその直観に基づいた決断力と行動がリーダーには必要です。
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