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Wednesday, March 4, 2020

日展大阪展世話人代表 小灘一紀さん [Voice(ボイス)] - 大阪日日新聞 - 大阪日日新聞

Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

2020年3月5日

仁徳天皇の大后を題材 目に見えない神話世界を具象化

日展の大阪展会場。新型コロナウイルス感染予防のため、現在は会場の大阪市立美術館が休館になっている

 伝統的な総合美術展「日本美術展覧会(日展)」で、巡回先の大阪展世話人代表を務める小灘一紀さん(75)は、日本の神話を表現する類いまれな画家だ。第1代天皇である神武天皇の皇后「伊須気余理比売命(いすけよりひめのみこと)」の恋闕(れんけつ)(天皇を常に思う意味)を表現した作品は、2017年に日展最高賞の内閣総理大臣賞を受賞した。令和最初の巡回展は、世界遺産に昨年登録された百舌(もず)鳥・古市(ふるいち)古墳群にちなみ、仁徳天皇の大后「石之日売命(いわのひめのみこと)」を題材に出品している。目に見えない神話世界を具象化する画業の原点を聞いた。

■現代人への警告

 私の画業を紹介した企画展「神々の微笑(ほほえみ)」が、出身地山陰の米子市美術館で開かれ、私はあいさつ文で、中世の芸術についてこうつづった。

 “中世のルネサンス時代は、ダビンチ、ミケランジェロを生み、日本では鎌倉芸術の運慶、快慶といった偉大な芸術家を輩出した。この中世のメメント・モリ「死を想(おも)え」といわれる死生観は、進化を魂の問題として「人間は神(崇高)を目指し、魂も無限に成長していかなければならない」と教えている。人間の崇高を目指し、目に見えない魂を求めて、自分が何のために生き、何のために死ななければならないのかを考えていた”

 中世の人たちは、目に見えない世界を大事にし、祈りをささげていた。しかし、現代は、魂の進化ではなく、物質の進歩思想が中心だ。進歩の行き着いた先に原子力を造ってしまい、それをどうするかで頭を悩ませている。つまり、目に見えるものだけを大事にする社会になり、死者との対話が無い。実際、仏壇や神棚のない家庭が多くなった。人間は仏壇を大切にし、死者と対話することから始めるべきだ。

 日展大阪展は2月22日に始まったが、会場の大阪市立美術館が29日に休館となった。新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される大変な時期に、大阪展の開催は当たってしまった。誤解を恐れずに言えば、これは、自然や、目に見えぬ神々を畏れぬ現代人への警告ではないかと思わずにはいられない。

■山陰の人々

 ふるさとの山陰は、出雲神話をはじめとする神々が息づき、社(やしろ)がきら星のように点在して信仰の対象になっている。松江市を拠点にした作家ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)さんは、出雲大社に参拝し、外国人として初めて昇殿を許された。神を大切にし、祈りを込めて生活していた。『ゲゲゲの鬼太郎』で知られる境港市出身の漫画家水木しげるさんも、妖怪の世界を描いた。

 そもそも、山陰の人間は真面目な性格で、人を押しのけることをしない。境高(境港市)から1956年にプロ野球入りし、阪急ブレーブス、阪神タイガース、近鉄バファローズで活躍した米田哲也さんが野球殿堂入りした際、私は、大阪で開かれた記念パーティーに出席したことがある。金田正一さんも来ており、彼の方が目立っていた。400勝投手だった左腕の金田さんはすばらしいが、右腕で350勝を記録した米田さんも「日本一の投手」だと私は思っている。私が小学生の頃、高校生だった米田さんの試合を観戦していたことを今でも覚えている。

 境高の卒業生には女優の司葉子さんがいる。夫は、昨年亡くなった元大蔵官僚で衆院議員だった相沢英之さん。相沢さんと横浜の中学校で同級生だった元日洋会理事長の國領經郎さんに、私は出会うことができた。戦後の洋画壇に独自の画風を確立した國領さんに認められ、私は日展に入選するようになった。

■畏敬の念

 日展最高賞の内閣総理大臣賞は、日展の出発点である1907年の第1回文部省美術展覧会(文展)からちょうど110年目に当たる2017年の改組新第4回日展でいただいた。受賞作の伊須気余理比売命は、恋闕の意味をかみしめ、構成と色彩の表現に工夫を重ねて描いた。

 今回の改組新第6回日展に出品した「石之日売命」は、百舌鳥・古市古墳群が世界文化遺産登録された昨年制作した。石之日売命は、仁徳天皇の浮気に対して嫉妬深く、意地悪な后と伝えられているが、本当は品が良かったと思い、上品な后に描いた。難波で天下を治めた仁徳天皇は、炊事の煙が立っていないことを見て民の貧窮を知り、税を免除したことで聖帝とたたえられたが、それは、石之日売命のおかげだ。石之日売命に叱(しか)られる度に、仁徳天皇は成長した、と何かに記されていた。

 神話を巡っては、山陰の人々でさえ知らない人が多くなった。人々が国の成り立ちを思うことなく過ごしていることを危惧し、私は15年前から古事記を描き続けている。先ほど話した「神々の微笑」のあいさつ文には、こうも書いた。

 “経済の繁栄ばかりを追ってきた日本人も、阪神大震災をはじめ東日本大震災など近年の自然災害を目のあたりにし、自然の驚異に畏敬の念を抱くと共に、人間の力を超えた見えない世界にも気づき始めた”

 芸術が無ければ、人間は生きていけない。私はこれからも、人間の目に見えない世界、祈りを描いていきたい。

こなだ・いっき 1944年、鳥取県境港市生まれ。米子東高、金沢美術工芸大彫刻科卒。29歳で日展に初入選。日展特別会員、日洋会理事長などを務める。改組新第4回日展で内閣総理大臣賞を受賞。堺市在住。

 【日展】 1907年の第1回文部省美術展覧会(文展)に始まり、帝国美術院美術展覧会(帝展)を経て、戦後、日本美術展覧会(日展)になった。現在の改組新第6回日展は、巡回先の大阪展が2月22日に始まった。会期は3月22日までだが、新型コロナウイルス感染予防のため、会場の大阪市立美術館は29日から3月16日までの間、休館になっている。

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