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Monday, January 8, 2024

【全国に示す新しい学校像】 各駅停車に乗り換えませんか - 教育新聞

 「学校改革は働き方改革とセットでなければならない」と語る、横浜創英中学・高校の本間朋弘副校長。「学び方改革」と「働き方改革」を並行する形で進めてきたとのことだが、それが実現した背景には何があるのか。インタビューの最終回では、本間副校長が考えるこれからの教員の在り方や、推進してきた働き方改革の内容などについて聞いた。(全3回)

行事も生徒主体

横浜創英中学・高校で「働き方改革」を進めた本間副校長=撮影:市川五月
横浜創英中学・高校で「働き方改革」を進めた本間副校長=撮影:市川五月

――「学びを生徒主体に移譲する」という最上位の目標に沿ったカリキュラムに転換していくとのことですが、授業だけではなく、他の教育活動も同様なのでしょうか。

 はい。学校運営も生徒主体に移譲しています。体育祭で教員がマイクを持つことはありませんし、文化祭も教員が設けたルールはほとんどありません。

 修学旅行は行き先やプログラムを全部生徒が決め、業者とのやり取りも生徒自身が行います。今の高1は全生徒440人中、修学旅行委員が160人もいます。委員がプレゼンをしてコースやプログラムを説明し、希望生徒を募ります。最終的には7コースぐらいに絞られますが、費用も日数もコースによって違います。

 関東地方を回るコース案もあって、ディズニーランドにでも行くのかと思ったら、温泉めぐりでした。これが「みんなで◯◯へ行く」だったら不満が出るところですが、自分たちが主体的に選んで行くことになるので文句は全く出ません。

――これだけのことを生徒主体で進めるには、ただ「行事は自分たちでやってね」と丸投げするのではなく、日々の学校生活でも生徒一人一人を大切にする働き掛けが必要になりますね。

 生徒の市民性を育てるのも最上位の目標に向けた学校の役割の一つで、各教員にも生徒の人間性や人権を尊重するよう伝えています。時折、教員は「今、我慢や忍耐の力を付ければ将来必ず役に立つから」などと言いますが、大事なのは生徒一人一人が今この時間を生き生きと過ごせる環境をつくっていくことです。

 その意味で、校則はゼロでよいと考えています。髪の毛が何色であろうとメークをしていようと、社会では問題視されません。こうしたことを教員が問題にするから問題になるんです。問題にしなければ問題になりません。

大胆な働き方改革の導入

――こうした「学び方改革」は、働き方改革と同時進行で進めたのですね。

 私は常々、「学校改革は働き方改革とセットじゃないとうまくいかない」と話しています。教員の負担が増えるような改革は必ず失敗します。働き方改革をスタートさせる時、「忙しさが是正されないのは人のせいじゃない。組織が持っている仕事量が多いことが原因です。人を責めるのではなく、仕事量を減らすことから考えましょう」と話しました。

 働き方改革を始めたきっかけは、新型コロナウイルスへの対応で緊急事態宣言が出て、学校が休業になったことでした。本校は2020年5月からテレワークを取り入れて教員の出勤をなくし、自宅からオンラインで授業を展開する方式にしました。その時に教員の多くが、「仕事に忙殺されずにゆとりを持って働くと、これだけ心が豊かになるのか」と実感したと思います。

――教員自身がゆとりの大切さに気付いたところから始まったのですね。

 教員は「働きがい」をつくるのは上手でも、「生きがい」をつくるのがうまくない。私は「仕事をすることのやりがいと、ゆとりから生まれる生きがい。その両方が共存するような職場をつくっていこう」とも伝えました。

 よく「教員は生徒のためという崇高な理想があるから、長時間労働するのが当たり前」のように言われます。でも、「生徒のため」と言っている限り、長時間労働はなくなりません。生徒を大切にしたいなら、家に帰ってまずは家族を愛すべきだと思うのです。ゆとりがあれば家族を愛することができる。だからこそ、生徒も愛することができます。

 中教審が学校の業務を3つに分類して、「基本的には学校以外が担うべき業務」「学校の業務だが必ずしも教員が担う必要のない義務」を示しました。本校ではそれらの仕事を全部やめました。その一つが登下校時の立ち番です。不思議なもので、これをやめたことで登下校に関する地域からの苦情がなくなりました。立ち番をするから、社会も「学校が何とかする」と捉えるのかもしれません。

 家庭訪問や地域清掃ボランティアもやめ、生徒の放課後の時間を増やすために帰りのショートホームルームもやめました。

――「やめる」というのは、全てトップダウンで決めていったのでしょうか。

 本校はトップダウンで決まるのは10%程度で、あとはボトムアップで決まっていきます。組織マネジメントで重要なポイントの一つは、責任の所在の明確化です。これについてはトップの役割がものすごく大事で、トップは戦略を語らないといけません。

 戦略とは、時代の潮流を読んだ上での明確な方向性です。この方向性を示すことができなければ、改革は共有できません。戦略が共有できたら、そこに至るまでの方法論や戦術は組織に任せます。あとは断固として戦略は実行するという強さと、最後は自分が責任を取るという覚悟をトップが持てばいい。

 戦術には、ミドルエージを巻き込むことが重要です。本校は昨年度に「学び方PT(プロジェクトチーム)」を発足させ、40歳前後の15人の教員が会議をリードしています。

 働き方改革を進めるためには、組織運営の効率化も大事で、分掌の再編を2カ月で終え、17あった委員会も大半を廃止しました。

「学校改革は働き方改革とセットで」と話す=撮影:市川五月
「学校改革は働き方改革とセットで」と話す=撮影:市川五月

――働き方改革で一番大きかったのは何でしょうか。

 職員会議の改革です。会議で感覚的に話をしている組織は学校だけだと思います。民間企業では、ほぼあり得ないことです。そこで、会議をどうやって論理的に結論を出す場に変えていくかを検討しました。

 まず、会議にかける内容を「伝達報告事項」「共有事項」「合意事項」に分け、資料の読み上げに時間を取られることこそ時間の無駄なので、「伝達報告事項」は資料の提示のみで、一切会議では扱わないことにしました。その分、読むだけで分かるように資料の精度を上げてもらう必要はあります。

 会議に出てくるのは、「共有事項」と「合意事項」だけです。このうち「共有事項」は、基本的には分掌からの原案を尊重するが、全体で共有する必要がある提案です。そして「合意事項」は、新しく出されたものや、変更が加えられた提案です。

 「合意事項」だけはある程度の議論を行い、会議で合意を得た上で決定していきます。大事なのは出席者のルールで、2日前には資料がサーバー上に上がるので必ず読んでおくこと、そして反対意見がある場合は論理立てて修正案を出すことにしています。

 1カ月に1回の定例の職員会議が開かれないことも多く、2022年度からの1年半で職員会議を開催したのは6回だけです。

 会議で大事なことは、みんなで意思決定をして、決まったことをみんなで実行していくことです。自分の考えとは多少違っていても、決まったことは尊重して協働することが大切です。今では職員会議は10分で終わります。

――この会議改革が最大の課題だったのですね。

 そうですね。もう一つの大きな課題は、完全週休2日制が実現していないことでした。私学の特色として毎週土曜日に半日授業があるため、私たちは週に1.5日の休みしか取れていませんでした。それをどう解消するかを考えました。

 土曜日については、生徒は午前授業ですが、教員は1日勤務としました。その上で、月曜日から土曜日のうち、教員が希望する曜日を選んで休むという体制に変えたんです。現在は、火・金曜日を全員出勤日とし、日曜日の他に月・水・木・土曜日から1日を所定休日としています。

 このようなシフト制を導入する際には不安の声も出ました。曜日によっては教員の4分の1がいない状況で、本当に仕事が回るのかと。でも、実際にやってみると回るんです。それぞれが支え合うので。各教員が分掌や学年のホワイトボードなどを活用しながら、横の連携をうまく図っています。

 公立学校では週休2日制が制度化されていますが、土日の部活動が大きな課題になっています。本校は土曜日を1日勤務としたため、土曜日午後の部活動を勤務時間に組みこんだのです。

――休日がばらばらだと、時間割を組むのが大変そうですが、その点はいかがでしょうか。

 それがそうでもないんです。希望を出す前に教科ごとに調整をして、教科内で休む曜日が分かれるようにしてもらいます。

 次に学年の中でも、担任がいない日に他の教員がホームルームに出られるよう、バランスを取ってもらいます。教科でも学年でも調整してから教務に希望が出されるので、その時点である程度は形になっていますし、半数くらいの教員は「どの曜日が休みでもいいですよ」と言ってくれています。

学校がより良くなる要素

――完全週休2日制の実現、素晴らしいと思います。残業時間についてはどうですか。

 退勤時刻の午後4時半になると、半数以上の教員が帰ります。この4時半退勤に私自身はこだわっていました。ある大企業の社長からの話で、働き方の大改革の一環として、その企業も4時半で勤務を終了にしたんです。「平日の労働区分は朝、昼、夜の3区分しかない。でも4時半で勤務終了にすれば、夕方という新たな区分ができる」と、その方はおっしゃっていました。そうすることで、夕方の時間帯に趣味の時間を持ったり、家族と過ごしたりできるようになるのです。

 以前は本校も遅くまで残る教員が多く、時間外労働が月45時間を超えている人が一定数いました。そこで、最初は「退勤の目安をまずは午後6時半にしよう」と呼び掛けました。1日に2時間の残業なら月45時間以内で収まります。今は退勤する時間はどんどん早くなっています。この1年半の間で、時間外労働が月45時間を超えた教員は一人もいません。

 工藤校長が「好きなことと仕事が一致することはあまりないかもしれないけれど、一致したらこんなに幸せなことはない。そういう職場にしたい」と話したことがありました。これからの教員は自分の強みや好きなことを生かした仕事をすればいいと思うのです。授業スキルの高い人、部活動に生きがいを感じる人、生徒支援の上手な人、それぞれがそれぞれの秀でているところを認め合える職場をつくっていきたい。全てのことをオールマイティーにやることを求めると、教員は疲弊します。

――教員が自分の強みを生かしながら、ゆとりをもって働ける職場というのは理想的ですね。

 働き方改革というのは手段であって、目的ではありません。学校改革を進めるためには、教員のゆとりが不可欠です。今、学校改革に着手できているのは、働き方改革が進んだ故のことだと思います。

教職員が高い意欲とやりがいをもって働けることの大切さを指摘する=撮影:市川五月
教職員が高い意欲とやりがいをもって働けることの大切さを指摘する=撮影:市川五月

 学校改革を進める上で、教育現場がより良くなるための要素は3つあると考えています。1つ目は、全ての子どもが楽しく充実していて未来につながる学びができること、2つ目は全ての保護者が毎日安心して子を送り出せて、子の未来がおぼろげでも見えること、そして3つ目は全ての教職員が高い意欲とやりがいをもって仕事に取り組めることです。

 教員はどうしても1つ目と2つ目に重きを置きがちです。でも、3つ目があってこそ、最初の2つに返ってくるのではないでしょうか。

 学校は比較的時間の管理がしっかりしている場所です。でも、それは最後の授業までのことで、放課後になると教員は特急電車に乗り込みます。明日やれることは明日やればいいのに、今日やろうとする。結果として特急電車は、夕方の5時になっても終着点に着きません。さらには7時、8時になっても停まらないのです。

 私たち教員の役割は、生徒の前に立って生徒を引っ張る存在ではなく、生徒の後ろに立って一人一人の姿を見ながら、生徒の背中を少し押すだけです。疲れている生徒がいれば、各駅停車から降りて、ホームで一緒に休んであげる。そして、疲れが癒えたら次の各駅停車に一緒に乗り込めばいいのです。教員も生徒も特急電車から降りて各駅停車に乗り換えませんか。

 働き方改革については、講演や視察でもよく手法の質問を受けますが、難しいことではありません。働き方改革は、教員が元気になるための道しるべです。一人一人の変えるべき勇気と、システムを築こうとする組織の才力があれば、職場の風土は必ず変わります。教員が幸せになることで、生徒の幸せにもつながる。そんな穏やかな雰囲気が学校の自然な姿になってほしいなと思っています。

【プロフィール】

本間朋弘(ほんま・ともひろ) 横浜創英中学・高校副校長。早稲田大学教育学部卒業後、神奈川県公立高校に29年間在職。学力進学重点校で進学体制の構築に努めた。著書に『解決センター日本史』『ハイスコア共通テスト攻略日本史』など。自治体や民間教育機関での講演活動多数。フェイスブックを通じて「学校改革」「働き方改革」のシリーズを発信している。

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