11月30日から始まる毎年恒例の国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)のために、世界の指導者たちがアラブ首長国連邦のドバイに集まる。2015年に合意したパリ協定で定めた目標に向けた進捗状況を確認する最初の「棚卸し」をまとめることが目的だ。
COP28(第28回締結国会議)を前に、UNEP(国連環境計画)は11月20日、厳しい内容の報告書を出した。そのタイトルは「Broken Record:気温はまたしても最高記録を破った。だが世界は温室効果ガスの排出を抑えられない(またしても)」だ。
報告書は、温室効果ガスの排出は減るどころか、2021年から2022年の間に1.2%増え、新記録になったとしている。産業革命前に比べて気温上昇を2℃以内に抑えるというパリ協定の目標を達成するには、温室効果ガスの排出は7年間で28%減らさなければならない。さらに野心的な目標である気温上昇1.5℃以内を達成するには、温室効果ガスの排出は42%減らさなければならない。
「今年の報告書のタイトルを『Broken Record』としたのには理由があります」と語るのは、共著者で世界資源研究所の科学・研究・データ部長であるタリン・フランセン。「今年、世界が排出量も気温も新記録をつくっただけでなく、著者として自分たちが『壊れたレコード』(broken record)であるような気がしてきたのです。毎年、毎年、世界の気候変動対策は不十分だと同じメッセージを繰り返しているからです」
問題は対策のペース
人類は誤った方向に爆進している。各国が本気で取り組まない限り、世界はパリ協定の目標を大幅に上回る2.5℃から2.9℃の気温上昇に向かって突き進むことになると報告書は記す。まさに壊滅的だ。産業革命前に比べて1.1℃上昇した現在すでに目の当たりにしている温暖化の影響と、さらにコンマ数度上がるだけで加わる苦痛を考えればわかる。9月の平均気温は産業革命前より1.8℃高く、9月としては過去の記録を0.5℃上回った(だからといって、パリ協定の目標である1.5℃を超えたというわけではない。目標は月ごとの記録ではなく、長期的な気温で設定してあるからだ)。
報告書は、パリ協定が許容する2倍の化石燃料を各国政府が2030年に生産する計画であることも指摘する。再生可能エネルギーの生産コストが下がり続け、電気自動車(EV)が増えているにもかかわらず。「問題はペースです」とフランセン。「すべてが遅すぎます。わたしたちは何もしないまま何十年も無駄にしてしまった。やっとさまざまなアクションを起こして、その効果が出ています。でも、その速度をもっと上げないといけません」
再生可能エネルギーにシフトしていくことは経済政策として健全であり、たくさんの副産物もある。アメリカでは、2022年に制定されたインフレ抑制法によって、グリーン経済に何十億ドルもの資金が流れ込み、すでに75,000もの雇用を創出したとの評価がある。化石燃料を燃やす量が減れば空気がきれいになり、医療費が減る。やればできるのだから、やるしかない。「歯痒くもあり、いい知らせでもあります。やればできることがわかったのですから」と語るのは、UNEP報告書の主席科学エディターであるアン・オロフだ。「やらない理由はありません。実際、ほとんどの国と指導者たちは、やらない口実が尽き始めていると思いますよ」
もし各国が「ネットゼロ」の約束(排出する温室効果ガスと同じ量を大気中から除去する)を守ったら、産業革命前に比べて2℃以内の気温上昇を達成することができるかもしれない。だが、国連は警告する。「ネットゼロの約束は現時点では信用されていません。ネットゼロ目標を達成できるだけの排出削減ができているG20の国はひとつもないからです」
気候変動の責任はひとえに、豊かな国々とそこにいる権力者たちにある。報告書によると、世界人口のうちの最も豊かな10%が温室効果ガスの半分を排出している。逆に世界人口の貧しい半分が排出するのは12%だ。アメリカの人口は世界の4%であるにもかかわらず、1850年から2021年の間に温室効果ガスの17%を排出した。だが、アメリカはこの流れを変え始めた。11月半ば、2005年から2019年の間にアメリカの温室効果ガス排出は12%減少したことが全国調査で明らかになった。とはいえ、目標達成にはほど遠い。
一方、その熱狂的成長によって、中国が2021年に出した温室効果ガスは世界の30%を占めた。だが中国は再生可能エネルギーとEVに巨額投資を行っている。G20は全体として、世界の温室効果ガスの4分の3以上を排出している。インドは世界の人口の18%を占めるが、地球温暖化に関しては5%しか責任がない。
二酸化炭素の回収と貯留
ここまでの進歩が不十分であるということは、人類が「二酸化炭素回収・貯留」といったまだ初期段階にあるテクノロジーに今後いっそう頼らざるを得なくなることを意味すると国連報告書は強調する。CO2回収は、大気中から二酸化炭素を除去する目論みだ。複数のスタートアップが「直接空気回収技術」技術を導入しようとしているが、排出量を減らすほどの力にはなっていない。人類が排出する二酸化炭素が年40ギガトンであるのに対して、こうした新技術が回収できるのは0.002ギガトンと「まだ極小」だと報告書は言う。「待てば待つほど二酸化炭素の蓄積は大きくなります。すると、除去しなければならない量も増えていくのです」とフランセンは言う。
二酸化炭素を減らすもうひとつの方法が、森林などを増やすことだ。こうした大地に依拠する方法によって、毎年、植物が成長するにつれて2ギガトンのCO2を取り除くことができ、生物多様性も増す。だが、この方法は脆くもある。大規模な山火事が発生すれば二酸化炭素はあっという間に大気中に戻ってしまう。そして総体として見ると、土地利用の方針も間違った方向に進んでいる。雑誌『One Earth』に9月に掲載された解説によると、2012年から2021年の間、土地利用の変更によって毎年7ギガトンの二酸化炭素が排出された。最大の要因は森林伐採だ。例えばアマゾン川流域では、牧場主たちが熱帯雨林を切り開いて、木屑を焼却する。その両方で二酸化炭素が排出され、森林がそれを吸収する能力が失われる。このようにしてアマゾン川流域の一部は二酸化炭素の吸収先から排出源に変貌しつつあり、これがさらに気候変動を悪化させる。
心配すべきはCO2だけではないと、この解説は指摘する。油田やガス田から出され、あるいは牛のゲップに含まれるメタンは、もっと地球を温める効果を秘めている(世界の食糧システムは温室効果ガス排出の35%に責任がある。その4分の1を占めるのが牛肉だ)。「家畜分野からのメタン排出を減らすには、食生活を変更する必要があります」と語るのは、この解説の筆者であり、パシフィック・ノースウエスト国立研究所とメリーランド大学に所属する地球科学者のゴクール・リアだ。食生活の変革は簡単ではない。途上国の人々が中産階級に育つにつれて肉の需要は高まるからだ。
ブラック・カーボンの削減
「ブラック・カーボン」と呼ばれる炭素微粒子も、広範に存在しながら知られていない問題だ。ディーゼル車が吐き出す黒煙や、炭を使った料理で出る煙、あるいはロケット発射時の煙など、化石燃料の不完全燃焼で放出される。「ブラック・カーボンはとても、とても強力な気候汚染源です」と語るのは、気候変動対策グループ「プロジェクト・ドローダウン」の研究者であり、最近ブラック・カーボンに関する報告書を共同執筆したユスフ・ジャミールだ。「短期的に見ると、ブラック・カーボンが気温上昇に与える潜在的な力は二酸化炭素の700倍から1000倍と見積もっていいでしょう」
炭素微粒子は大気汚染の主要因であり、1年間に400万から700万人の死に影響している。そして雪の上に落ちると、雪塊を溶かしてしまう(色の濃い雪は太陽光をより吸収するため早く溶ける)。最近出された報告によると、再生可能エネルギーに切り替えることによって雪塊は保持され、飲料水の供給も増える。
ブラック・カーボンを減らすには簡単な方法がある。EVを増やし、調理のための燃料をクリーンなものに変えることだ。これらは即効性がある。なぜなら、ブラック・カーボンは強力な気温上昇要因である一方で、1カ月以上大気中を漂うことはないからだ。
それでもパリ協定の目標達成を考える際にブラック・カーボンを考慮に入れている国はほとんどないとジャミールは言う。「これは大きな問題です。強力な解決方法があるというのに」。11月30日、各国から集まる7万人もの参加者がCOP28をスタートさせる。そして人類が自らを落とし込み、悪化の一途をたどる惨状を、2週間足らずの期間の間で分析して考察しなければならない。
UNEPの報告書は、会議で新たな目標を掲げる必要はなく、わたしたちの文明の気候が進む道を絶対に再調整しなければならないという厳しい警告だ。共著者のフランセンは言う。「わたしたちはすでに検討し、何が問題なのかすでにわかっています。いま問われているのは、COP28の指導者たちが、この問題にどのように立ち向かうのか、ということです」
(WIRED US/Translation by Akiko Kusaoi/Edit by Mamiko Nakano)
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