東京電力福島第一原発の処理水について、政府は昨日の関係閣僚会議で24日にも海洋放出を始めることを決めた。政府と東電は内外での説明と対話を尽くしつつ、安全確保や風評被害対策に重い責任を負わなければならない。
福島第一原発では、炉の冷却水に地下水や雨水が加わり、汚染水が増え続けている。廃炉作業の敷地確保のために保管タンクを減らす必要があり、汚染水から大半の放射性物質を取り除き、海水で薄めた処理水を放出することにしたという。
政府と東電は8年前に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」と福島県漁連に約束した。21日に岸田首相と面会した全国漁業協同組合連合会の会長は、「科学的な安全性への理解は深まった」としつつ、「反対に変わりはない」と述べた。政府が約束を果たしたとは言えない。
政府は2年前に海洋放出の方針を決めてから地元に説明し、時期を「23年春から夏ごろ」として準備を進めてきた。結論と日程ありきの手順が不信感を高めたのではないか。
風評被害を懸念する漁業者に対し、岸田首相は「今後数十年の長期にわたろうとも、全責任をもって対応する」と話した。この約束は、必ず守らなければならない。
一方、東電の存在感は極めて薄かった。小早川智明社長は放出決定まで漁業関係者に会おうとせず、7月の記者会見では、漁業者側から要望があれば会うが、自分たちから持ちかけるものではないと説明した。当事者意識の欠如に驚くばかりだ。
東電は、他の原発でも不祥事を繰り返している。長期に及ぶ処理水の放出に際し、積極的な情報公開と説明を尽くせるか。想定外の事態が起きたときに十分な対処ができるか。主体的に動かなければ信頼は得られないことを自覚すべきだ。
処理水放出について国際原子力機関(IAEA)は「国際的な安全基準に合致」するとの報告書を公表した。計画通りに運用される限り、科学的に安全な基準を満たすと考えられるが、それを担保するには、厳格な監視と情報開示が不可欠だ。
福島第一原発には、処理水以外にも重い問題が山積する。溶けた核燃料を取り出す見通しは今も立たず、損傷した炉が今後の地震でさらに壊れる恐れもある。福島県内にある除染土は45年までに県外で最終処分するというが、道筋は不明だ。
処理水放出の決定にあたり、政府は「廃炉と復興」を進めることを名分にした。その場しのぎの「約束」を重ねるようなことは、もはや許されない。
からの記事と詳細 ( (社説)処理水の放出 政府と東電に重い責任:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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