[北京 21日 ロイター] - 中国人民銀行(中央銀行)は今後も利下げを続け、経済のてこ入れを図る公算が大きい。ただ、専門家は、民間企業や家計の借り入れ需要が鈍く、結果として既に利ざや縮小に苦しむ銀行に一層打撃を与えるだけに終わりかねない、とみている。
エコノミストの見立てでは、家計や企業が新型コロナウイルスのパンデミックで痛んだバランスシートの調整や借金返済に追われているため、小幅の利下げでは借り入れ需要の喚起という面で大きな効果を及ぼすことはできない。
つまり需要を刺激するには、政府が財政を含めた他の政策を発動することが不可避になるという。
人民銀行は20日、事実上の政策金利「ローンプライムレート(最優遇貸出金利、LPR)」の1年物を、住宅ローン金利の目安となる5年物とともにそれぞれ10ベーシスポイント(bp)引き下げた。
大半のエコノミストは、年後半に追加で10bpの利下げと、預金準備率の25bp引き下げがあると予想している。預金準備率は直近で3月に25bp引き下げられた。
銀行に貸出金利を下げる余地を生み出させるには、銀行にとって主な資金調達手段となる預金金利の引き下げを政府が容認しなければならない。足元では銀行収益力の重要な指標となる、貸出金利と預金金利の差である純利ざやは、過去最低の水準になっているからだ。
今年第1・四半期の純利ざやは1.74%で、昨年末の1.91%から急速に縮小した。
光大証券の銀行アナリスト、ワン・イーフェン氏は「年後半にLPRの追加引き下げが行われる可能性があり、それは銀行に再びコスト面で重圧を加えるだろう」と語る。
ワン氏は「銀行は負債のコストを抑えるために、第4・四半期に一部の預金商品の金利をさらに下げるなどの対策を打ち出しそうだ」とみている。
招商証券のリポートに基づくと、LPRが5bp低下するごとに、大手銀行の税引き前利益は最大で1.8%目減りする恐れがある。
もっとも貸出金利、預金金利双方を下げても、肝心の借り入れ需要が上向いてこなければ、銀行への追い風にはならない。
複数のアナリストの話では、昨年9月以降の銀行による一連の預金金利引き下げは、消費拡大につながっておらず、これ以上引き下げれば預金者のリターン減少という副作用の方が大きくなるかもしれない、という。
人民銀行のデータによると、1─5月の新規融資全体に占める家計向け融資(主に住宅ローンと消費者ローン)の比率はわずか14%と、昨年の18%から低下し、2021年の40%を大きく下回っている。
ナティクシスのアジア太平洋シニアエコノミスト、ゲーリー・ング氏は「小幅の利下げは(経済の)痛みを除去してくれても、本当の問題を癒す力はない。家計や企業は、経済の先行きや政策の予測可能性に不透明感を持っている。つまり政府は各種規制を緩和し、金融と財政以外の政策分野でも人々が安心感を高められるようにしなければならない」と指摘した。
<資源配分、ゆがむリスク>
民間セクターの景況感が低調のままであるため、今後、融資資金は国有企業やインフラ事業向けにより多く振り向けられてもおかしくない。だが、それは銀行セクターの不良債権リスクを増大させ、構造的な資源配分のゆがみにつながりかねない。
ある大手国有銀行の幹部は「民間企業の借り入れ需要は、コロナ禍以降の数年間かなりの低水準が続いてきた。そして(昨年12月に)、感染対策に伴う規制が解除された後、企業はバランスシートの修復を進めているところなので、彼らが新たに借金をして工場建設や設備拡張に動くと考えるのは、非現実的だ」と述べた。
中国経済は、まだ政府が掲げた年間成長率5%前後の達成軌道から外れていない。だが、今後数カ月で景気減速に拍車がかかれば、失業者がさらに増え、デフレリスクを助長し、民間セクターの景況感が一段と低下するかもしれない。
こうした中で16日には、国務院がさまざまな景気てこ入れ策を協議。政策策定に関する情報を知る人物によると、具体的にはインフラ整備予算執行の迅速化や消費者・民間企業への各種支援、不動産規制の緩和などが打ち出されそうだ。
政府系シンクタンク、中国社会科学院シニアエコノミストのチャン・ミン氏は、政府が速やかに需給ギャップ解消に向けた政策パッケージを実行しなければならないと提言。消費者向け買い物補助券発行のため1兆元(1390億ドル)の特別債発行を検討する必要があると訴えた。
中国政府は消費の回復を優先課題にすると約束しているが、今のところ大胆な政策を求める声に応じてはいない。
(Kevin Yao記者、Ziyi Tang記者)
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