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Tuesday, March 14, 2023

多死社会、火葬場余裕なし…札幌市 友引の稼働検討 広がる ... - 読売新聞オンライン

 人口は、出生数の減少や外部への流出だけでなく、亡くなる人の増加によっても減っていく。それに合わせて行政も対応を改めている。

 「それでは、お別れいたします」

 2月中旬、札幌市清田区の里塚斎場。張り詰めた空気の中、真っ白なひつぎの前で、喪服姿の女性らが顔をゆがませた。「おとうさん、ありがとう」。震えた声が響き、ひつぎはゆっくりと火葬炉に吸い込まれた。

 この日は、火葬を行わない「友引」の翌日。静寂の1日から一転、火葬がぐんと増える日だ。午前中から夕方にかけて65人のひつぎが次々と運び込まれ、昼前には、遺族らが乗るバスが何台も斎場前で入場待ちの列を作った。

 里塚斎場の年間火葬件数は市民の高齢化の進展により、2012年度から21年度にかけて3割増加した。30基ある火葬炉の稼働能力はそれぞれ1日3回が限度で、1日に火葬できる上限は90人だ。友引明けの今年1月13日にはその上限に達した。市保健所の大河原利広・施設課長は「稼働はもうぎりぎりの状態」と打ち明ける。

 市内にはこの里塚斎場と手稲区の山口斎場があり、火葬できるのは年間で最大計3万9750件。過去最多を更新した21年度の2万4178件でも余裕があるように見えるが、斎場は能力を維持するため、ほぼ20年に1度、稼働を止めて大規模改修しなければならず、その際に1施設で対応できる件数はすでに超えている。新たな火葬場の建設は用地確保の面から一筋縄ではいかない。市がピークとみる54年度は3万2792件に達する見込みで、このままだと火葬まで何日も待たされることになりかねない。

 市は今年度、友引の火葬や、斎場での待ち時間解消に向けた予約システムの導入の検討を本格的に始めた。友引の火葬は、慣習にこだわらない人が増えてきたことから、苫小牧市など道内外の都市で始まっている。札幌市が18年度に斎場などで行ったアンケートでも、抵抗がないとした人が4割に上っている。

 市は、葬儀の数が増えるにつれて火葬場の稼働に余裕がなくなっていることなどを市民に理解してもらおうと、今年度初めて葬送を考えるパネル展も各地で行ってきた。大河原課長は「行政サービスとして、心を込めてきちんと死を悼んでもらえる葬送を提供し続けられるように、考えなければならない」と話す。

 2月16日朝、千歳市役所を訪れた夫婦が、神妙な顔つきで職員と向かい合っていた。市が20年11月に設けた「おくやみ窓口」だ。

 上下水道の名義変更、保険証や印鑑登録証の返還……。肉親が亡くなると、遺族は役所で多くの手続きをしなければならない。従来、心労を抱えた遺族が2時間から半日程度かけて役所内の各窓口を歩き回る必要があったが、予約制のおくやみ窓口では事前に各課の職員が書類を準備し、窓口に来てくれるため、平均50分で済む。

 夫と訪れた女性(65)は、86歳で亡くなった父親の介護保険や固定資産税に関する手続きを40分ほどで済ませ、 安堵あんど した表情を浮かべた。「どんな手続きか全然わからなかったけど、全部いっぺんに済んでよかった」

 同様の窓口は、札幌市や恵庭市、岩見沢市なども開設している。行政は少しずつ、「多死社会」に対応する準備を始めている。

 (行政編おわり。宮下悠樹、柳沼晃太朗、長谷裕太、中尾敏宏が担当しました)

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