「私たちは報道に携わっている人がジャーナリストだと思いがちです。でもそうではない。われわれだってジャーナリストでなければ…」。東京都NIE推進協議会主催のセミナーが八月下旬にあり、講師の柳沢伸司・立命館大教授が、新聞活用教育に取り組む先生たちに語りかけた。
柳沢さんがこのとき解説したのは、治安維持法で検挙され終戦直前に獄死した哲学者・戸坂潤が著書に記した言葉「一切の人間が、その人間的資格において、ジャーナリストでなくてはならぬ」。マス・コミュニケーション論を研究する柳沢さんは、「大切な言葉だ」と、大学の講義でもよく紹介しているという。
セミナーで柳沢さんは、大正時代に起きた言論統制事件やジャーナリスト桐生悠々(きりゅうゆうゆう)の言葉「言わねばならないこと」などを例示。もし自分が新聞業界人やその時代の読者だったなら、どんな評価や行動をするか。当事者の立場からの想像力を働かせてみてほしいと問題提起した。
その上で、恩師の故・新井直之さんがジャーナリズムについて説明した「いま伝えなければならないことを、いま伝え、いま言わなければならないことを、いま言う行為と過程」という言葉を紹介。次のように指摘した。
「報道と言論の活動をすることがジャーナリズムであると彼はまとめましたが、ここで(それをするのが)『メディア』だとは特に言っていない。私たちはだれでもそれができる。とすれば、私たちはそうしたことをできているでしょうか。言いたかったんだけど言わなかった、ということはよくある。でもそれをする・伝えるということと、それが表現できるということがどれほど大事か−。私たちは改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか」
柳沢さんは新聞活用教育に関心を持つ研究者らでつくる日本NIE学会の常任理事でもある。「NIEについて最近思うのは、そんな難しく考えなくていいんじゃないの、と。ジャーナリズムを支える読者・市民になること、新聞を読む力をつけること、これに尽きるんじゃないか」
柳沢さんは国内の新聞購読部数が減り続けていることにも触れ、こう結んだ。
「新聞の力が弱まれば自由な社会は失われていきます。言論表現活動が失われる。心の中で思っていてもそれを表明できなければ、自由とは言えない。それを私たちは過去の歴史に学んだはずです。私たちがジャーナリズムを、新聞を育てていかなければならない。厳しい状況に新聞は置かれています。ぜひ市民として、読者として考えていただければ」 (東松充憲)
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