目の前の人のために
今年4月から、北海道むかわ町国保穂別診療所の常勤医になった。
言論で不特定多数の人に主張を伝えてきたが、一回仕切り直しをしたいと考えた。きれい事かもしれないが、等身大の仕事、目の前のことに立ち戻りたいと思った。
医療をビジネスとみる医師も増えてきている。さまざまな場所で医師が活躍することは悪いことではない。けれども他の人にはできない、替えのきかない医師免許をもっている以上、目の前で必要としている人のために使いたいと考えた。
恐竜がきっかけ
地域医療に取り組みたい気持ちはあったが、北海道でなければならないわけではなかった。探しているなかで、穂別診療所が目に入ってきた。穂別は、恐竜のカムイサウルス・ジャポニクス(通称・むかわ竜)の化石が発掘された場所だ。2019年に国立科学博物館で展示された際に見て、強い印象があった。それが穂別診療所を選んだきっかけだ。
これまでやってきた精神科医とは違う仕事ではあるが、その人の生活史を含めて話を聞く点では共通する。高血圧や糖尿病でもよく話を聞くことから始まる。自分のなかではこれまでの延長線上にある。
穂別は診療所と役所の保健福祉の役割がシームレスに機能している。顔の見えるスタッフ同士で医療、介護、福祉が奇跡的につながっている。保護者が医療を受けなければならないならば、子どもの対応をというようなことが自然にできている。
今の医療は疾患ごとにかなり厳密な手順が定められている。その人の人生、年齢や家族、どのような内容でどこまでの医療を望んでいるかなどがあまり考慮されず、「一定の血圧を超えたらこの薬」という対応になることもある。そうした問題も見えてきた。
思いつめなくとも
患者は圧倒的に高齢者だ。80代、90代も多く、1人暮らしも多い。一方で、地域で助け合いがあり、買い物や食事を手伝い、診療所の待合室でお互いの安否を確認している。診療所があることの意義を強く感じる。
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