ウクライナの戦局は膠着(こうちゃく)しているが、戦いは2014年から続くウクライナ東部ドンバス地方の内戦の形に戻りつつある。
当時と現在の違いは、親露分離派勢力が支配する「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」をロシアが承認したことに加え、ロシアの直接軍事作戦により実効支配している地域を大幅に増やしたことであり、双方が正面衝突する「ロシア・ウクライナ戦争」へ変わったことだ。
ロシアの戦争目的とは親露のドンバス地方の実効支配、既に併合したクリミアに至る陸の回廊の確保にあることが明らかであり、プーチン大統領自身の「大ロシア」観に基づき、ウクライナ東部から地中海に至る対北大西洋条約機構(NATO)の壁をつくるということなのだろう。
これからどうなっていくのか
このまま進めばどうなるのか。戦争の泥沼化だ。
ロシアは東部・南部に戦力を集中してくるのだろう。しかしウクライナには米国をはじめNATO諸国からの軍事支援が強化されるだろうし、戦争の熾烈(しれつ)化、長期化だ。
同時にロシアに対する経済制裁は強化され、ロシアの外貨収入を断つべく石炭、石油、天然ガスの輸入停止、さらにはロシアへの新規投資の禁止といった措置が西側に広がる。また、国連人権理事会でのロシアの資格停止に見られるように、国際場裏からのロシアの排除は続くだろうし、ロシア外交官の追放も続く。
民間人の虐殺に関する戦争犯罪の追及も進むだろうし、戦況の膠着化とともにプーチン大統領が追い詰められていくことは必至だ。しかし、ロシア国内ではプーチン大統領の支持率は80%を超えるとされており、大国志向の強いロシアでプーチン体制が簡単に崩壊するとも考えにくい。
プーチン体制が維持されたまま国際的に追い込まれていくというこのシナリオには、二つの大きなリスクがある。第一には、追い詰められたプーチン大統領が大量破壊兵器に手を出す可能性だ。
ロシアの作戦計画には既に小型戦術核兵器の使用が織り込まれているというが、化学兵器使用の可能性もあるのだろう。仮に大量破壊兵器が使用された場合には、NATOは手をこまねいて見ているということになるか。米国ないしNATOが軍事的介入を決断すれば、第三次世界大戦への危機をはらむ。
しかし、もし介入しないということになれば、米国の抑止力は根底から崩れる。ロシアは米国の介入や報復を恐れて核兵器の使用をしないという限りにおいては米国の核抑止力は効いている。
しかしロシアが追い詰められて核兵器を使用する瞬間に抑止力はなくなるし、さらに米国が行動しないということになると、ロシアが核を使用する国であることが、むしろ米国を抑止しているということになってしまう。世界秩序維持の前提が崩れるということだ。
第二に、長期的にはグローバリゼーションと相互依存の世界から「専制体制と民主主義体制」の分断が決定的となる。この観点では中国が今後どのような態度をとるのかが大きな意味を持つ。
中国がロシアのウクライナ侵攻を支持することはないだろうが、経済制裁に反対する中国がロシアから原油・天然ガス・食料の輸入量を増やし、ハイテク貿易を拡大していくことは容易に想像ができる。さらに香港・新疆ウイグル自治区・台湾情勢いかんでは米国との対立が激化する可能性は常にある。
そうなっていけばロシアと中国の連携は進む。国連での投票態度を見れば国際社会がロシア非難一色というわけではなく、伝統的戦略関係を有するインドやイラン、シリアなど反対や棄権の態度をとる国も多い。世界が分断され相互依存関係が寸断されていくと考えても不思議ではなく、世界経済の大幅な収縮につながっていくのだろう。
出口をつくるためには何が必要か
これ以上の人道危機を避け、二つのリスクが顕在化するのを防ぐためには出口をつくるしかない。それにはプーチン大統領とバイデン米大統領の考え方が最も重要だ…
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