9回にマスクをかぶったルーキー捕手の中川勇斗は、さぞかし、うれしかっただろう。試合後、虎番記者の取材に対して冷静に応じていたようだが、そこはオープン(OP)戦とはいえ1軍のゲーム。昨年は京都国際の捕手として活躍した舞台にプロ選手として戻ってきたのだから。

「空気感を味わうだけでも感じるものもあるやろし。プロの中でスタートが切れた1日になったと思う」。起用した指揮官・矢野燿大もそう話した。矢野が言うように記録的にというか厳密に言えばファームは「プロ」ではない。OP戦も記録に残らないにしても「プロの一歩」が甲子園だったのは記念すべきことだ。

中川だけではなく甲子園出場をきっかけにプロに入った選手が多いのは言うまでもない。中日の新しい指揮官・立浪和義もその代表的な存在だ。野球選手にとっての「聖地・甲子園」。そして今回、聖地を去る立浪の気分はよくないだろうと想像している。

監督として初めて足を踏み入れた甲子園で連敗。OP戦でも何でもPL学園出身の野球エリートが負けてうれしいはずがない。さらに言えば中日側から見て「甲子園の阪神戦」は課題になっているのではないか。昨季は10試合で2勝7敗1分けと低迷する1つの象徴にもなっている。

阪神サイドからすればそんなお得意さま? に連勝できたことで弾みをつけたいところ。これも「甲子園のスター」だった藤浪晋太郎の5回無安打投球など虎党が楽しめる勝利だった。

今年、甲子園で予定されるOP戦は8試合。この日で4勝2敗1分けとなり、センバツに明け渡す前の最終13日巨人戦を前に勝ち越しを決めた。

「開幕前に何言うとんねん」…という声も聞こえてくるが、やはり負けるより勝つ方がいい。それになんと言っても甲子園だ。勝たなければならない。就任4年目の今季限りで監督の座から降りると言う矢野燿大の功績の1つが甲子園での戦績だろう。

19年 32勝29敗1分け

20年 36勝18敗3分け

21年 30勝28敗4分け

コロナ禍で変則シーズンとなった20年の貯金18を筆頭に過去3シーズンすべて甲子園で勝ち越してきた。前監督・金本知憲の時代はかなり苦しんだのでこれは立派だ。今年も甲子園で白星を重ね、それが“悲願”につながれば、これ以上の集大成はない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 試合前練習で阪神中川(左)を指導する矢野監督(撮影・前田充)
阪神対中日 試合前練習で阪神中川(左)を指導する矢野監督(撮影・前田充)