
紋章を打ち砕かれたスペイン前国王
それはシュールな光景だった。サグラダ・ファミリアに近いバルセロナ中心部の広場の一つで、市の職員たちがつるはしを振るい、記念碑からスペイン前国王フアン・カルロスの紋章を剥ぎとったのだ。紋章は地べたに置かれ、現場にいた市民たちは喜び、その様子はテレビ局のカメラや写真家によって記録され、永久に残ることになった。 この出来事があったのは2021年4月のことだ。スペイン人の大半は、1981年のクーデターで前国王が果たした役割など、どうでもいいと考えているのだろうか。あのとき、まだ若い国王だったフアン・カルロスは、軍の最高司令官として反乱将校の一団に武器を捨てさせ、まだ脆弱だったスペインという民主主義国を守ったのだった。 しかし、いま民衆にとってフアン・カルロスといえば、汚職に手を染め、老いぼれた老人で、亡命先のアラブ首長国連邦で、スペインの司法によって運命を言い渡されるのをじっと待つ存在でしかない。 長年「近代的な君主」と言われた、フアン・カルロスは、欧州には10ヵ国ほどある君主国の君主にとっても身近な存在で、その姿を範としてきた王族も少なくない。 しかし、脱税や収賄に関わる不祥事などのせいで、かつての華やかなイメージは影も形もない。ベルギーやスウェーデン、オランダ国王、そして英国の女王エリザベス2世なども、フアン・カルロスの命運に無関心ではいられないはずだ。
民主主義国における君主という矛盾
民主主義国の国王──、それが難しい課題であることは君主自身がよくわかっている。いまどき歴史や血統が訴えるものは弱く、王子様とのロイヤル・ウェディングに憧れる若い女性もいない。君主は、国の永続性を表す存在だが、変化の激しい現代社会に合わせた変革も要求される。 だから君主はニュースを逐一チェックし、すぐに行動しなければならないが、発言は許されない。憲法で禁じられているからだ。ベルギー国王のフィリップは2021年7月、大雨で冠水したリエージュの街で、被災者を励まし、消防士たちに微笑みかけるため、長靴を履いて歩いた。 一方、英国の女王エリザベス2世は、95歳になったいまも、王室内の規律を保つために動かなければならない。20年前、ダイアナの悲劇を巧妙に忘れさせたあの手腕を振るい、今度は醜悪なエプスタイン事件への関与が報じられた息子アンドリューを王室から緊急に切り離した。もう一つの悩みの種は、ハリーとウィリアムの王子同士の対立だ。以前は、こうした揉め事は王族内で解決したが、いまは王子たちがSNSを使ってやり合うので大変だ。 オランダ、ベルギー、スペイン、英国、そして北欧諸国。どの国の君主も、自国の「臣民」が「王様が何かの役に立つのだろうか?」と考えていると知っている。なかには「王室を廃止してもいいのではないか」という、より残酷な問いも存在することも。
からの記事と詳細 ( 「王室は何のためにあるのか」 変わらなければならない欧州の王室(クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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