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Wednesday, September 30, 2020

進まない米国でのドローン配送、その実用化がまだ先になる3つの理由 - WIRED.jp

米国の物流大手UPSの子会社でドローン配達を専門とするUPS Flight Forward(UPSFF)、ドローンメーカーのMatternet、そしてノースカロライナ州の医療機関のウェイク・フォレスト・バプティスト・ヘルスは、2020年7月半ばにあるプロジェクトを始めた。

3社の目的は極めて先進的である。ウェイク・フォレスト・バプティスト・ヘルスの約0.5マイル(約800m)離れた2カ所の施設間を、特殊医薬品と保護具を載せて行き来するのだ。想像してみてほしい。特殊医薬品や個人用防護具(PPE)といった医療品を積み、最高時速43マイル(同約70km)で勢いよく飛んでいく小さな飛行機を──。

いまだローテクなドローン配送

現時点では、ドローンの操作には人間がかかわっている。このクワッドコプターは、専門のドローンパイロットでなければ操縦できないのだ。そして、この種のパイロットの資格をとるためには、航空学の知識を含む難関の試験に合格しなければならない。

飛行中は常に、飛行経路に沿って配置されている眼視観測者(visual observers)による監視も義務づけられている。眼視観測者はドローンが空中で何かに衝突しないようにするために、双眼鏡を使わず肉眼でドローンを観測しなければならない。

最先端技術のドローンを扱うにしては、この状況はかなりローテクである。Matternetの最高経営責任者(CEO)のアンドレアス・ラプトポロスが言うように、ドローンによる配送は「大規模で実現可能なものではない」のだ。Matternetはスイスの国営郵便会社スイスポストと共同で、これまで3,000回以上にわたるドローンによる医療サンプルの輸送を実施してきた。そのスイスでは、ドローンはチューリッヒ近郊のオペレーションセンターから遠隔で監視される。

米国内で進むドローン配送プロジェクト

米国でのドローン配送には困難な面があるにもかかわらず、一部の大企業はドローン配送の将来性に関心を寄せている。

アマゾンは2020年9月初め、米連邦航空局(FAA)から航空運送業者としてドローン配送開始の認可を得た。UPS、アルファベット子会社のWingに続き、米国では3社目だ。アマゾンはまた、英国やオーストリア、フランス、イスラエルにドローン開発センターも保有している。

配送ドローンのテストをいつどこで始めるのかについてアマゾンは回答を避けたものの、同社の幹部はドローンを商品配送を迅速化する戦略の一環と見なしている旨を明言している

さらに、ドローン配送には別の利点もある。ドローンはバッテリーで動くので、配送用ヴァンのように排気ガスを出さないし、交通渋滞も起こさない。

UPSとMatternetはウェイク・フォレスト・バプティスト・ヘルスのほか、米国内ではノースカロライナ州ローリーの医療施設やフロリダ州の老人ホームでドローン配送を実施している。どちらも輸送しているのは処方薬だ。

これに対してWingはパンを配送している(同社はオーストラリアやフィンランドでもドローン配送を展開している)。また、物流大手のフェデックスは小包や救命キットの配送に加え、パンデミックの間はヴァージニア州南西部の町の図書館の本を住民の家まで届けている

ドローン配送スタートアップのZiplineも、3年にわたって輸血用の血液や血しょう、医療サンプルをルワンダやタンザニアで配送しており、現在はPPEをノースカロライナ州でも配送している

関連記事:アフリカではいま、ドローンが新型コロナウイルスの検査サンプルを運んでいる

ドローン配送が実用化されない3つの理由

こうした実験的な試みや当局の事務手続きが進んでいるにもかかわらず、「Amazonプライム」で注文したブリトーのようなものがドローンで運ばれてくる未来は数年先になりそうだ。

これには大きく3つの理由がある。ひとつは、政府が規制を定めなければならないこと。もうひとつは、企業がビジネスモデルを探さなくてはならないこと。そして最後は、そもそもドローンでブリトーを配達してもらいたい人がいるのか誰も知らないことだ。

ドローン配送事業を拡大したい企業たちがFAAに求めている事項は、いくつかある。例えば、人のいる地域の上空を夜間に飛行できる規制の制定(いまのところドローンの飛行はケースバイケースで承認されている)や、商用運転のための能率的な手順などだ。FAAは2024年中に最終的なドローン規制を公表する予定になっているが、業界観測筋によると、その時期は遅れる見込みである。

FAAの長々としたプロセスのせいで、ドローン配送事業はいまのところ、アマゾンやアルファベットのような大企業に有利な展開になっている。このような企業はドローン事業で収益が上がらないままでも、数年に及ぶ開発、試験、ロビー活動に投資できるからだ。

「長く苦しいゲームであり、既存の参加者が有利になります」と、AirMapの共同創業者でペパーダイン大学の法政策学教授も務めるグレゴリー・マクニールは指摘する。AirMapは、ドローン飛行を監視し自動化する技術を開発しているスタートアップだ。

ドローン配送が口で言うほど簡単ではないことは、アマゾンの過去の状況からもすでに明らかになっている。

アマゾンCEOのジェフ・ベゾスが、ドローンによる30分以内の商品配送という方針を初めて発表したのは2013年のことだった。2019年6月にアマゾンが新たなドローンのデザインを公表したとき、同社幹部は「数カ月以内」にAmazonプライムの顧客の一部に商品をドローンで配送できるだろうと語っている。その後、ボーイング元幹部デヴィッド・カーボンが現在のアマゾンのドローン計画の統率を引き継いでいる。

こうした状況から考えると、トイレットペーパーや靴下といった日用品がドローン配送されるようになる時期は、もっと先のことになりそうだ。

ドローン配送は望まれているのか?

ドローン配送の最初の試験運用の対象が、企業間の医療品の輸送になったことは偶然ではない。金のあるところでこそ、ドローンのスピードが重要になるのだ。

「物流コストだけでなく、そのほかのコストの問題も解決しようとしています」と、Matternetのラプトポロスは言う。彼が例に挙げたのは、MRIの修理で専用の部品が必要になるケースだ。MRIが1日作動しないとなると、病院にとって何万ドルもの損失になりかねないと彼は言う。

さらにドローン配送は、悪路や渋滞している場所では格段に時間と費用を節約できるだろう(なお、Matternetはスイスでドローンの墜落事故を2件起こし、安全性の見直しのため2019年8月から2020年1月までドローンの飛行業務を停止された。いずれの事故でも負傷者は出ていない)。

ところが、ここで疑問が生じる。アマゾンの顧客は、Amazonプライムの荷物を空から届けてほしいのだろうか?

トイレの後ろに歯ブラシを落としたときには、注文から15分以内に新しい歯ブラシが届けばありがたいだろう。しかし、ドローン配送システムを運用するために、ドローンがあなたの家の芝生に着陸したり、あなたのアパートすれすれに飛んでいったりしても構わないだろうか? だいたい、隣近所に住む人たちはどう思うだろう?

この種の聞き取り調査をオーストラリア政府が実施したのは2018年のことだった。このとき、すでにWingによるドローン配送の試験運用が始まっていた。

政府の調査をまとめた報告書によると、キャンベラ近郊のボニーソンの住民から、ドローンがうるさかったという苦情が出ている。住民たちはドローンの騒音について、「2ブロック先を走るF1カーの音」「田舎の静けさを満喫しているときに頭上で響く歯医者のドリルの金属音」と表現している。住民たちいわく、ドローンは人々のプライヴァシーを侵害したのである。

さらに住民たちは、積み荷の処方薬が頭上に落ちてくるトラブルを心配していた。オーストラリア連邦政府の航空当局は、飛行機の騒音を規制する責任はないと力説していたが、住民の激しい抗議を受け、ドローンの騒音について状況を定期的に確認するという方針を固めた

AirMapのマクニールは、米国の当局者も似たような仕事を大量に抱えているとした上で、「連邦政府は地域社会がドローンを歓迎するよう州政府や地方自治体に権限を与える能力に欠けています」と語る。「ドローン配送を地域社会に受け入れてもらうには、すべきことがたくさんあるのです」

※『WIRED』によるドローンの関連記事はこちら

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