文在寅(ムン・ジェイン)政権は総選挙で政権与党が180議席を確保し、改憲を除いてできないことがない絶対的な政権になった。総選挙に現れた国民の意思は明確だ。新型コロナウイルス問題を克服し、経済を回復させよという要求だ。韓国政府が最初にすべきことは財政を放出し、賃金と労働時間を統制する所得主導成長を取り下げることだ。所得主導成長は労働者の賃金から引き上げて消費を増やし、労働時間短縮により雇用を増やして経済を育てるという政策だ。馬車(所得)が馬(企業)を引っ張るという前代未聞の政策実験だ。ところが新型コロナショックが世界を襲い、こうした前提が完全に崩れた。経済が成長し続けてこそこの実験が可能だが、いまはマイナス経済時代が開かれた。
事実韓国経済は近来に入って底をついた経済体質に所得主導成長の副作用まで加わり力を出せなくなっていた。今年はオイルショックと通貨危機の衝撃を受けた1980年と1998年以降で初めてマイナス成長が予告されている。すでに1-3月期から1.4%のマイナス成長を記録し下り坂経済が始まった。この下り坂は始まりにすぎない。米国は失業者3000万人を出して失業率が20%に迫り、中国も1-3月期に過去初めてマイナス成長を記録した。
その余波はそのまま韓国に押し寄せる。最初から求職を断念し「ただ休んでいた」という人だけで3月は237万人に達した。やむを得ず失業に追い込まれた「一時休職者」も160万人を超えた。追加補正予算を繰り返し財政を注ぎ込む短期バイトのその場しのぎでは耐えられない。所得主導成長をすぐに引っ込めなければならない理由はここにある。雨が降れば庭に広げた穀物をしまわなければならないのと同じ論理だ。韓国政府はこれまで湯水のごとく財政支出を増やしてきた。今年512兆ウォンの予算のうち福祉支出は35%に達する。児童・青年・高齢者にわたり現金手当て受給者が1000万人を大きく上回るほどだ。福祉支出は一度始めると中断が難しい不可逆的性格がある。「税金主導成長」という言葉が出る理由だ。
福祉は経済が永久的に成長するという前提の下で可能だ。だがいまは状況が完全に変わった。1980年と1998年はそれなりに成長潜在力が高かった時代で回復弾力性が高かった。経済衝撃がきても企業が即座に金を稼いで国の蔵を満たした。いまはパラダイム自体が変わった。当然視してきた成長の時代が過ぎ去りマイナス経済時代が来た。その結果福祉支出を後押しする財政余力が急速に悪化する公算が大きくなった。弱り目にたたり目で今年からベビーブーム世代の高齢化も本格化している。地下鉄無料乗車から基礎手当て、医療費まで福祉費をまかなうのは厳しい。
韓国政府は勇気を出さなければならない。経済が成長し続けるという前提が変わったため政策も変わるほかないと言わなければならない。180議席を確保したからその気になれば可能なことだ。野党のせいにすることも言い訳も不可能なのだからひたすら実用と実事求是だけで危機を突破しなければならない。「国民が総選挙で期待以上に声援してくれたので全国民に災害支援金を給付しなければならない」という形のポピュリズムは望ましくない。今回の総選挙で国民は無料を望まないという点を明確にした。国家革命配当金党は18歳以上の国民に毎月150万ウォンを生涯支給するとしたが、得票率は0.7%にとどまった。
大きな議席には大きな責任が伴う。新型コロナ対策こそ政策を修正する絶好の機会だ。根本対策は企業の投資心理を回復する努力だ。結局雇用は企業が作るためだ。政策転換を恐れる理由はない。英国のブレア前首相と米国のクリントン元大統領は進歩左派を代弁する政治家だったが保守右派のアジェンダを大幅に受け入れて経済を太らせた。また、ドイツのメルケル首相は根本的に保守右派だったが進歩左派のアジェンダを大幅に受け入れてドイツを欧州のリーダーに仕立てて15年にわたり長期執権している。韓国の大統領も果敢な決断が必要な時だ。「リーダーシップの別の名前が責任」ではないのか。
キム・ドンホ/論説委員
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