発売1カ月で5万部を突破した入山章栄氏の最新刊『世界標準の経営理論』。800ページを超え、約30の経営理論を網羅する大作であるが、章ごとに完結しているため、どこから読んでも良い。いわば辞書のような利用こそが、本書を最大活用する方法の1つだ。
そこで実施しているアンケートを基に、「読者が選ぶベスト理論」をご紹介していく。今回は「レッドクイーン理論」だ。筆者に解説してもらった。(聞き手/DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 小島健志)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。 2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。 著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)がある。
Photo by Aiko Suzuki
企業競争の3類型とGAFAの戦い方
読者が選ぶベスト理論:第32章 レッドクイーン理論
理由:自社がまさに「知の深化型の共進化」(※)のスパイラルに陥っていると感じており、その背景となるロジックや、これから取るべき行動のあり方について多くの示唆があったからです。
また、この章が好きなのも、最初から全ての章を順番にしっかりと読み解いていったことも影響していると思います。
古典的な経済学がベースの「SCP理論」から導き出される「競争を避ける」ことの重要性と、 レッドクイーン理論が示す「競争の中で学習する」ことの重要性という、異なる見解に対する入山先生の解説が腹落ちしました。
そして、最後に紹介された経営者の方々の言葉に感動したことも、この章に惹かれた要因の一つと考えています。
(東京都、上地直人さん)
(※:いかに相手を上回るかを目的として過度な競争をした結果、互いの製品・サービスが似かよったものになる一方で、大きな環境変化には対応できなくなるという進化をすること)
――レッドクイーン理論は世界標準とはまだ呼べないとしながらも、日本の状況を語るには優れている理論ですね。
入山(以下略):そうなのです。どうしても日本のマーケットにいるとライバルに目がいって、国内の敵しか見えなくなってしまいがちですよね。日本がそれだけ閉じており、ガラパゴス化しやすいということだと思います。それに対して、レッドクイーン理論では、スペック競争を国内でばかりやっていると、グローバルの変化についていけないということを示しています。そういう意味ではこの理論は本当に日本企業に示唆的です。
ご存じのように、日本はグローバルで見ると1億人という小さなマーケットです。しかも、人口減少により市場が縮小しています。そのマーケットで勝負しても、結局はスペック競争になってしまう。逆に、いま世界でユニコーンになった会社(※:10億ドル以上の企業価値を持つ会社)は基本的に、最低3億人以上のマーケットを相手にしていますね。
例えば、シンガポールの配車アプリGrab(グラブ)がそうです。以前、インドネシアを訪れた時に、グラブ幹部のプレゼンテーションを見ました。最初から東南アジアを含めた6億人の世界を見てビジネスを展開していました。
日本企業も、これから拡大する大きな市場でレッドクイーン競争を行うのなら、まだわかるのですが、やはり、日本国内だけをみている企業は、どうしても弱い印象を受けてしまいます。日本のスタートアップにおいても、ビジョンをもって世界のマーケットをみて、世界を変えるという会社がもっと出てきてもらいたいと感じました。
――本の最初に登場するSCP理論は、非常にオーソドックスな理論です。一方、最後に出てきたレッドクイーン理論は「まだ世界標準ではない」と紹介されています。この2つが並ぶことをどう思われますか。
最初に紹介した理論と、最後に紹介した理論を読者の方がきちんと紐付けて考えてくださっていて、本当にありがたいです。実は、この二つは並べて考えるべき理論なのです。
どうしてかと言いますと、それは競争の型が異なるからです。この点について説明した章があり(本書93ページ)、実はこの話とぴったりとはまる話なのです。
少し説明をしましょう。バーニーは「企業の競争には3種類の型がある」と述べています(図表2参照)。
1つが産業・競争環境の構造要因が影響を与える「IO型」。2つ目が「チェンバレン型」と呼ばれるものです。
IO型は、市場構造・競争構造に障壁をつくって「ライバルとの厳しい競争を避ける」ことに主眼を置くのに対して、チェンバレン型は、企業の差別化はある程度されているという前提で、厳しい競争のなかでいかに「勝つ差別化」をするのかというものです。つまり、企業のもつ技術や知識、ブランド、人材などのリソースを重視する考え方です。
僕の理解では、SCP理論はIO型の競争について述べており、要するにポーター的な戦略をとるものです。スケールメリットを追求したり、大胆な差別化をしたりして参入阻止をしましょう、といった話につながります。
レッドクイーン理論は、そうではなくてチェンバレン型の競争を述べています。いわゆるライバル会社と切磋琢磨(せっさたくま)し、技術力や人材力を高めることで、国際的にも競争力を高めていくというわけです。RBVを重視した考えでもあります。
だから、ポーターは「日本に戦略がない」と言ったのですが、それは当たり前で、日本の戦略はチェンバレン型、レッドクイーンだった。そのため、日本企業は国際的に競争力を持ち、長い間、強かった時代が続いたのです。
――ではなぜ、いま日本企業は低迷しているのでしょうか。
それは、イノベーションの必要がなかったからです。当時、日本は製造業が全盛で、かつ、人口ボーナスがありました(※:生産年齢人口がほかの人口よりも多く、拡大する時期)。だから強くなれた。日本の製品がそのまま世界で売れた時期があり、中国もライバルではありませんでした。アメリカのまねをし、品質を高めてコストを落とすだけでよかったとも言えます。
さらに日本は同質的な人材が多いため、製造業に向いていました。製造業では、同じものを歩留まり高く作るのが重要です。同じものを安定して作るには、同じような人がいた方がよく、それにあわせて教育していく…というふうになる。オペレーショナル・エクセレンスによる技術・サービス有意がそのまま競争力につながっていたというわけです。
そのため、ポーターから見ると戦略がありませんよね、と見えるのです。ところが、時代が変化して、チェンバレン型の競争があまり必要なくなってきました。グローバル市場では、IO型に移行しました。また、ハイエンドの製品は、三つ目の競争の型である、技術革新のスピードや顧客ニーズの急変にあわせた「シュンペーター型」が求められるようになったのです。ようはイノベーションに基づく戦略が必要になったのです。
――競争の型をわけて考えないといけないのですね。
GAFA(※:グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドットコム)は要するに、まずシュンペーター型で新しいものを生みます。そして、IO型に移行し、ネットワーク効果で、独占状況を築く。築いたら潤沢なキャッシュを得て、そのマネーを、またシュンペーター型の競争にばんばん投じてくる。その循環なのです。
例えば、フェイスブックだったら、自社のネットワークを広げて広告収入を得て、WhatsAppを買いました。さらにWhatsAppが当たると、そのネットワーク効果を生かして、キャッシュを生み、またイノベーションを起こす競争にマネーを振り向ける。グーグルもここのサイクルを回しているだけです。YoutubeもAndroidもそうですよね。
――なるほど、いまだ日本の大企業はチェンバレン型の競争をしているのに対して、GAFAはチェンバレン型の競争に大した投資をしていない。いまの日本企業にヒントとなる、本質的な議論ですね。
とても根深い問題でもあります。僕は、日本の社会全体の問題だと思います。これを本当に真剣に問題だと考えるのであれば、教育から変えていかなければなりません。そんな話も経済産業省の人ともしたところです。その意味で、本当に素晴らしい読み方をしていただいたのだと感じました。
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February 19, 2020 at 02:30AM
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