看護師の模範と仰がれる英国のナイチンゲールは、十九世紀のクリミア戦争の現場で兵士をみた。感染症が猛威をふるう病院の環境改善に努め、換気の重要性を訴えた▼著書で、看護で大事なのは「患者が呼吸する空気を外気と同じように清浄に保つこと」と説いた。「空気は常に戸外から取り入れなければならない。しかも新鮮な空気が入ってくるような窓を利用しなければならない」とも。感染症の知見が確立していない時代で、福岡の医師向野(こうの)賢治さんは自著『ナイチンゲール 「空気感染」対策の母』(藤原書店)で「感染対策分野の先駆者の一人」と評す▼換気が難しい季節が来た日本で新型コロナウイルスの感染者が増えている。増加が目立つのは北海道や東北、長野などの寒冷地▼この冬は、インフルエンザの同時流行も懸念される。政府は飲食店の営業時間短縮要請などはしない方針と聞くが、感染者が増えれば酒食を控える人はいる。年末の書き入れ時を前に店主らは浮かぬ顔という▼ナイチンゲールは、看護では空気に敏感であれとも説いた。「静かにしているときに、そよ風が頬をなでるのが感じられるほどでなければ、空気が新鮮であると気を許すことはできない」▼日本人が肌で感じる世の空気はいつ変わるのだろう。医療の逼迫(ひっぱく)を心配せず、周囲の目も気にせずに杯を傾ける日々はそろそろ、戻っていい。
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