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Friday, July 1, 2022

焦点:アフリカ産農産物、中国輸出に「事後の要求」の壁 - ロイター (Reuters Japan)

[ティーカ(ケニア) 28日 ロイター] - ケニアの農業法人カクジが保有する果樹園で、労働者たちが木に実ったアボカドを揺さぶり落としている。クリス・フラワーズ最高経営責任者は、その光景を眺めながら、収穫物の一部が最も魅力的な新興の消費市場、中国に出荷される可能性に胸を躍らせている。

 ケニアの農業法人カクジが保有する果樹園で、労働者たちが木に実ったアボカドを揺さぶり落としている。写真はナイロビ郊外で収穫されたアボカドを仕分けする作業員。3月17日撮影(2022年 ロイター/Monicah Mwangi)

中国政府がアフリカ諸国との貿易に力を入れつつあるのに乗じて、ケニアは大幅な貿易赤字を少しでも削減しようと、数年にわたり市場開放への働きかけを続けた末に、この1月に生のアボカドを中国に輸出する協定を締結した。

だが、ロイターの取材に応じたケニアのアボカド生産者協会と植物衛生検査当局、そしてカクジ によれば、締結から6カ月経った今でも、まだ1度も出荷は行われていないという。

ケニア国内の検査に合格したアボカド輸出業者は10社。ところが現在、中国側は独自の検査をやりたいと主張している。他のアフリカ諸国の果物生産者のこれまでの経験によれば、ゴーサインが出るまでに10年かかっても不思議はない。

国際連合アフリカ経済委員会で貿易担当部門を率いるスティーブン・カリンギ氏は、「現に市場があっても、基準に適合できなければ何の恩恵も得られない」と語る。

ロイターはアフリカ諸国の当局者や事業者約10人に取材をした。彼らは、中国側の煩雑な官僚主義と、包括的な貿易協定の締結に消極的な姿勢が、アフリカからの輸入促進という中国政府の計画の足を引っ張っていると語る。

とはいえ、農産物輸出の拡大は、アフリカ諸国が中国との貿易収支を改善し、膨大な債務の返済に必要な外貨を得るうえで、数少ない選択肢の1つとなっている。債務のかなりの部分は中国政府に対するものだ。

ケニアの場合、中国との貿易収支は年間約65億ドルの赤字で、対中債務はおよそ80億ドルだ。今年は債務の利払いだけでも6億3100万ドル近くが必要だが、この金額は2021年の対中輸出額のほぼ3倍に相当する。

アフリカ諸国の多くは、中国からの借入をこれ以上増やすのは論外であり、対中輸出を増やさなければならないと話している。中国側も貿易不均衡に対応する、少なくともさらに悪化させることを防ぐ必要を認識しており、昨年11月に戦略転換を発表した。

これまで中国とアフリカ諸国との首脳会議は、驚くほど巨額の借款を中国が発表する場として利用されてきたが、習近平主席は11月の会議で、今後3年間のアフリカ諸国からの輸入を計3000億ドルに拡大し、さらに2035年までに年3000億ドルとするためのさまざまな方針を発表した。

複数の専門家は、理屈の上では最も有望な手段の1つが農業であると語る。中国が世界最大の食糧輸入国である一方、アフリカ諸国において農業部門は就労者数でもGDPへの貢献度でも首位だからだ。

さらに、世界全体では未開発の耕作適地の60%がアフリカに存在し、非常に大きな成長可能性を秘めていることになる。

中国商務省系のシンクタンクである中国国際貿易経済協力研究院の梅新育氏は、「中国、アフリカ双方にとって、ウィン・ウィンの選択だ」と語る。

<貿易不均衡という課題>

ここ数十年、中国はアフリカ諸国との関係を深め、鉱産資源・石油の採掘を進めつつ、鉄道、発電所、高速道路の建設費用として多額の借款を提供してきた。

これによって中国とアフリカ諸国の貿易規模は過去20年間で24倍に膨れ上がり、昨年はコロナ禍による世界的な混乱にもかかわらず、中国・アフリカ諸国間の貿易額は過去最高の2540億ドルに達した。

だが、2021年には1480億ドル相当の中国製品がアフリカ諸国に輸出されたのに対し、中国がアフリカ諸国から輸入したのは1060億ドルにとどまった。そのうち750億ドルは、5つの資源大国(アンゴラ、コンゴ共和国、コンゴ(旧ザイール)、南アフリカ、ザンビア)で占められている。

ナイジェリアの人口はアフリカ最大で、中国製品の輸入額もトップだ。2021年には230億ドル相当を輸入しており、ナイジェリアからの対中輸出額の8倍にも達した。

不均衡がさらに顕著なのがウガンダだ。輸出品の約80%はコーヒー、茶、綿花といった農産物で、昨年の対中輸出額は4400万ドルだが、逆に輸入額は10億ドルを超えた。

中国税関当局のデータによれば、アフリカ諸国のうち4分の3以上では中国との貿易収支が赤字となっている。

中国外務省アフリカ局の呉鵬総局長は、こうした不均衡は意図した結果ではないと話している。

呉鵬総局長はロイターに対し、「中国は常に、中国・アフリカ諸国間の貿易をバランス良く発展させることに注力している」と語った。

北京に本社を置くアフリカ系の開発コンサルタント企業ディベロップメント・リイマジンドの創業者ハンナ・ライダー氏は、アフリカ諸国首脳は多年にわたり、貿易分野での行動を求めてきたと言う。

一方で、コロナ禍を機に債務問題への関心が高まった。アフリカを中心とする低所得国の約60%では、債務返済負担が過去20年間で最も重くなっており、債務超過またはそのリスクが高い状態にある。

ライダー氏は、「アフリカ諸国には、これ以上の借入ができないという重圧がかかっている」と話す。「(中国は)貿易分野で何かできないかと考えている」

<グリーン・レーン>

食品・農産物分野における中国の輸入額は、20年前は130億ドル相当だった。2020年には1610億ドルまで飛躍したが、そのうちアフリカ諸国からの輸入は2.6%を占めるに過ぎなかった。

中国外務省でアフリカを担当する呉氏は、成長をコントロールすることで均衡のとれた貿易が確保され、アフリカでの雇用機会を増やし、アフリカ大陸の工業化を支援することにつながると話す。

「中国・アフリカ間の貿易協力についてアフリカ諸国が感じる重要な懸念に、(中国は)積極的に対応してきた」と同氏は語る。

習近平主席の計画では、アフリカ産農産物の検査を迅速化するため、「グリーン・レーン」と呼ばれる集約的な通関区域の設置や無関税市場アクセスの拡大、アフリカからの輸入を担う中国企業への100億ドルの貿易融資を提唱している。

アデレード大学国際貿易研究所のローレン・ジョンストン客員上席講師は、理屈の上では、中国における食糧需要の増大はアフリカにとって、農産物輸出を活用して外貨を獲得する大きな機会になっていると指摘する。

「債務問題を背景に、農産物輸出が注目を浴びるようになった」とジョンストン氏は言う。「そもそも、非常に理に叶った投資だ」

とはいえ、ケニアも含め、一部の諸国はこの機会をなかなか活用できていない。ケニアはアボカドの生産量でアフリカ首位で、昨年は欧州向けを中心に1億5400万ドル相当を輸出した。

ケニア植物衛生検査局(ケフィス)のエリック・ウェーレ氏は、今年は10社のアボカド生産者が複雑な手続きを経て対中輸出に向けた検査に合格したと語る。

「中国向けには、果樹園の検査、梱包作業所の検査、さらに燻蒸消毒施設の検査が必要になる」と同氏は言う。

ウェーレ氏によれば、ケニア最大のアボカド生産者であるカクジの場合、種子から果樹の管理、アボカドの収穫、加工、梱包まで生産過程の追跡可能性を示すのに1カ月を要したという。対照的に、欧州連合は出荷の際の検査しか要求しないと同氏は語る。

ところが先月、ケフィスは中国当局が独自の検査を行うことを決定したと発表した。隣国ウガンダの経験を見ると、これは必ずしも良い話ではない。

「中国側の検査では、こちらの行き届かぬ点を指摘されることが非常に多い」と、ウガンダのエマニュエル・ムタフンガ対外貿易委員長はロイターに語った。

<越えがたい障害>

タンザニアのコーヒー農家もなかなか対中輸出で頭角を現せなかった。ナミビアでは、牛肉輸出協定に調印してから中国側規制当局を満足させるまでに9年かかり、ようやく2019年に初出荷にこぎつけた。

呉氏は、中国の計画的な取り組みは、アフリカ諸国の農家が自身の検疫と食料安全性確保能力を改善するのに寄与するはずだと言うが、梅氏とジョンストン氏は、アフリカからの輸入品に対する植物検疫が緩和される可能性は低いと語った。

「中国と食品安全性以上に乗り越えにくい障害は存在しない」とジョンストン氏は語る。

専門家の中には、中国が輸入促進に向けた他の方法を見逃している面もあるという声もある。南アフリカ農業ビジネス協議会の主任エコノミスト、ワンディーレ・シフロボ氏もその1人だ。

シフロボ氏によれば、中国政府はEUのように、アフリカ諸国や地域経済ブロックとの包括的な貿易協定に向けた交渉を進めることもできるはずだという。

だが中国は、あいかわらず2国間取引、それも個別の農産物の貿易にこだわっている。

「一番言いたいのは、中国がアフリカからの食料輸出に対してもう少しオープンであってほしいという点だ」とシフロボ氏。「より有利な協定に向けて交渉している個々の国々に、多くの負担がかかっている 」

アフリカ諸国の中で、中国市場における先駆者の1つが南アフリカの柑橘類産業で、2004年には中国政府との間で最初の協定を締結している。2021年には16万2000パレットの果実を輸出した。だが、成功に至る道は容易ではなかった。

南アフリカ柑橘類生産者協会のジャスティン・チャドウィックCEOは、「南アフリカの柑橘類にとって、中国は夢のような市場だった」と語る。

とはいえ、いまだに南ア産柑橘類にとって圧倒的に大きな輸出先は、食品安全性基準が厳しいはずの英国と欧州連合であり、昨年の輸出額の44%を占めている。

「中国市場に進出したければ、それぞれの農産物ごとに個別の協定を結ばなければならない。それぞれについて平均して約10年かかる」とチャドウィック氏は語る。

「あいにく、中国は1度に1種類ずつしか交渉しない」

(Duncan Miriri記者、Joe Bavier記者、翻訳:エァクレーレン)

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