ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。
2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。
今、春ドラマの中でも特に注目を集めているといっても過言ではない『正直不動産』。
スカッとする展開と、テンポの良い会話劇はCMなしの45分間もあっという間に感じさせるパワーを持つ。
第3話は新人・月下(福原遥)の過去が明らかになり、主人公・永瀬財地(山下智久)との信頼関係がより深まった重要な回となった。
また、山下智久という素晴らしい俳優が持ち合わせるクールでドライな顔と優しくソフトな顔の二面性が、このドラマにさらなる深みを与えていることを確信した回でもあった。
山下智久といえば、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)などが有名だが、クールで感情表現が少ない役の印象が強い。
当ドラマの主人公・永瀬財地も同様に、クールでスマートな不動産営業マンである。
喜びや怒りが全面に出ないシンプルな役柄だからこそ、一つひとつの仕草やちょっとした表情に心情の変化が宿る。
これはとても難しい役柄に違いないが、山下智久はそんな役をも器用にこなして見せる。
『正直不動産』では特に皮肉めいた毒舌が視聴者の笑いを誘うのだが、そんな毒舌キャラに時折見せる厳しくも頼れる上司の顔、お客様を想う優しい表情が掛け合わさることで素晴らしい相乗効果を発揮する。
これが山下智久が演じてこそ生まれた『正直不動産』の強みだと思う。
毒舌なのに愛おしい、永瀬の本音が与える魅力
とある謎の祠(ほこら)を破壊してしまったことで嘘がつけなくなる祟(たた)りに遭ってしまった永瀬は、商談中だろうと契約が吹っ飛んでしまうようなデメリットや本心が口から溢れ出てしまう。
しかも丁寧な接客とは一変、心の声はいつも毒舌である。
第3話では夫の退職金で商店街に駄菓子店を開こうとする夫婦が登場。しかし、希望あふれる二人に永瀬の水を差す一言が…。
正直不動産 ーより引用「甘い。甘すぎます。駄菓子屋で買った水あめに練乳かけたくらい甘すぎます。そんな年寄りのノスタルジーだけでお店の経営ができると思ってるんですか?」
どストレートすぎる…!
確かに駄菓子店は客単価も低い。今の時代、「都会で経営は厳しいのでは…」と誰しもが思うだろうが、客となればはっきりと言えないことの方が多い。
それを何のオブラートにも包まず、放ってしまうのが当ドラマの見どころでもある。
客だろうと上司だろうと、この祟りは止まらない。
永瀬の恋愛事情に切り込むシーンでは、彼女は作らないという永瀬に月下が「そうなんですか?えっ、でも永瀬先輩、めっちゃモテそうなのに」と上手にヨイショする。
いつもなら謙虚にかわすはずの永瀬だが、ここでも祟りの力が発揮されてしまう。
正直不動産 ーより引用「いや、そんな全然もうモテ…て、モテてしょうがねえわ。誰に向かって言ってんだ、おい」
おっしゃる通りだ。誰もが認める国宝級イケメンにこんなことまで言わせてしまうのだから、このドラマは素晴らしい。
毒舌なのに何だかとても愛おしく、嫌味に聞こえないトーンもまた山下智久の魅力である。
このような随所にあふれるコミカルなシーンに、気付けば誰しもが魅了されているのだった。
信頼できる部下の存在、永瀬の心の変化
嘘がつけていた頃は金を稼ぐことにしか興味がなかった永瀬だが、カスタマーファーストにこだわる新人の月下と接することで、少しずつ心境に変化が起こっていた。
先述した商店街に駄菓子店を開きたい夫婦だが、月下は商店街を活性化させるためにも良い案だと前向きに捉えていた。
彼女は駄菓子店を子供が気軽に通えて、仕事で家にいない親たちが安心できる場所にしたいと語る。
そんな月下とは対照に市原隼人演じる桐山は、荻窪の喫茶店を契約後、上司に、もし店が潰れてもすぐに次の借主を見つけ、これを続ければ仲介手数料を延々と稼げると話していた。
両者の話を聞いていた永瀬はなんだか腑に落ちない表情を浮かべる。
そこに言葉はなかったが「不動産を売る」という意義を自らに問いかけているようにも見えた。
契約時の利益だけを目的に、後先を考えていない営業は果たして善と言えるのか。
これまで部下の指導でも、どこか億劫な一面が見られた永瀬だが、最後に月下に投げかけた言葉は視聴者の心をグッと掴んだ。
これはカスタマーファーストで見事に気難しいオーナーの心を掴んだ月下へ送る、永瀬なりの愛情表現である。
トゲのある言葉から一変、柔らかく優しい演技で第3話のラストを包み込んでくれた山下智久の演技に私たちがどっぷりとハマっているのはこれで明らかとなった。
信頼できるパートナー・月下と共に奮闘する姿をこれからも見守っていきたい。
[文・構成/grape編集部]
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