語学にゴールはない
筆者は大学で朝鮮語(韓国語)の授業を担当しているほか、過去に9年間ほど中国語を教えていたこともある。外国語の授業では、たとえ初修者を対象としていても一定数の既修者が混じるのは常であり、熱心な学生さんから思いがけない質問を受けることもしばしばだ。教える側として未熟さを顧みることも多く、語学にゴールはないと実感させられる。
「好きこそものの上手なれ」。その言語が用いられている地域に強い関心を持っている学生の伸びは顕著である。朝鮮語の場合、最近はK-Pop好きの学生がほとんどであるが、韓国野球などに関心を寄せる学生に出会うこともある。必ずしも朝鮮半島を好きになる必要はないものの、興味を持ち続けることは重要だ。
一方、やる気のない学生への対応は常に悩ましい。教える側の力量不足と言われてしまえばそれまでだが、そもそもの問題は、大学のカリキュラムにおいて外国語科目の履修が必修となっていることにあるように思うこともある。
大学進学率が低かった時代ならいざ知らず、いまは過半数の高校生が大学に進学する。超大国アメリカの存在感やインターネットの普及で英語の重要性は間違いなく増しているにもかかわらず、依然として英語以外の外国語履修が必修化されている大学は少なくない。その背景は複雑であるためここでは省略するが、個人的には、英語以外の外国語については学びたい学生だけが学べばよいのではないかと考える。
とはいえ、本格的な大学受験シーズンに突入しており、合格通知が来れば早くも入学後の第2外国語を決定しなければならない受験生もいるだろう。そういった皆さんに声を大にして言いたいのは、履修する外国語は慎重に選ぶべきだということだ。
よくよく考えてほしい。一つの外国語を習得するために途方もない労力と時間を必要とされることは、これまでの英語学習で知っているはず。安易に第2の外国語を選んでしまうと、その後1、2年間のキャンパスライフが台無しになりかねない。キャンパス内での会話で自分がどの語種を選択しているのか口にするのは日常茶飯事であり、入学したばかりの学生にとって「チャイ語」や「フラ語」は背番号のようなものだと言っても過言ではない。
まずは、長期的な視野で選ぶべきだろう。一時期的な関心で選んでしまうと、その関心が薄れた時に単語や文法を覚えるのは苦行以外の何物でもなくなってしまう。
実用性のみで選ぶのも考えものである。国連の公用語など多くの国で話されている言語を選ぶのは一つの選択肢ではあるが、実際に社会に出てみると英語で十分だったりもする。
一方でマイナー言語の使い道が狭いのは言うまでもない。朝鮮語について言うならば、たとえビジネスに使えるレベルに達したとしても、流ちょうに日本語を話す韓国人も多く、希望の職に結びつけるのは難しい現状もある。そもそも習得が比較的容易な言語を学生時代に学ぶ必要はあるのだろうか。NHKテレビ・ハングル講座のテキスト販売部数はフランス語や中国語を抜いている。民間の教室も数多く、社会に出てからも意思さえあれば学べる機会はいくらでもある。吸収力のある若いうちは、文法や発音が難しいとされる言語を選択すべきかもしれない。
高校生がこれらを複眼的に熟慮するのは難しいだろう。それでも一度立ち止まって自分の「背番号」はそれで良いのか、さまざまな経験談にも耳を傾けてみることをおすすめする。結局は相性の問題であって万人に共通する答えなどないのだが、語種の選択を失敗して後悔する学生がいかに多いことか。
【筆者紹介】
礒﨑 敦仁(いそざき・あつひと)
慶應義塾大学教授(北朝鮮政治)
1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員(北朝鮮担当)、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。著書に「北朝鮮と観光」、共著に「新版北朝鮮入門」など。
(2022年2月9日掲載)
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