日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)を巡る訴訟で、水戸地裁が原発の運転を認めない判決を言い渡した。実効性のある避難計画がなければ、重大事故から住民を守ることができないことを理由とした。人命の重視は原発稼働の大前提であり、他の電力事業者や国・自治体も水戸地裁の判断を重く受け止めるべきだ。
国内で深刻な原子力災害が起きると、一般的に数万人から数十万人の周辺住民が速やかに避難しなければならなくなる。実際の避難には相当の困難が見込まれ、判決は「実現可能な避難計画を作り、実行できる体制が整備されていなければならない」とした。
その上で、東海第2について検討し、半径30キロ圏内に14市町村の約94万人がいるにも関わらず、避難計画を策定したのは5自治体のみで、策定済みの項目にも積み残しの問題があると指摘。そのことから「実現可能な計画が整えられているというにはほど遠い。防災体制は極めて不十分」と断定。住民の生命や身体に深刻な被害を与えることになりかねず、「人格権侵害の危険性がある」とした。
新たな課題を提起
国際原子力機関は原発の安全確保にあたり「深層防護」の考えをとっている。安全対策を5段構えとし、第1~4層で事故拡大などを抑える。失敗した場合でも、5番目の避難によって住民の安全を確保するというものだ。
水戸地裁はこの考えに沿って、東海第2に1~4層の欠陥はないと判断したものの、最後の5層の不備を指摘した。同種訴訟ではこれまで原発の耐震性が主な論点だったが、避難計画に着目して新たな課題を提起したと言える。
東海第2は2011年の東日本大震災で自動停止して以来、現在まで稼働していない。18年に再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査に合格し、最長20年の運転延長を認められた。原電は安全対策工事を22年に終える予定で、早期の再稼働を目指していた。
原電は控訴しており、差し止めの効力は判決確定まで生じないが、避難計画の不備を指摘されたことで、稼働のハードルは一層高くなった。
東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故では、放射性物質拡散の情報が住民に十分知らされず、避難者を危険にさらしたり、車の渋滞を招いたりした。
国はその後、避難計画策定を義務付ける自治体の範囲を、原発の半径10キロから30キロ圏に広げた。しかし、福島のような複合的災害に際し、現状で住民の安全が十分確保できるだろうか。地裁判決は、大震災の反省を生かすよう警鐘を鳴らしたとも言える。
避難計画総点検を
大震災前に54基だった国内の原発のうち、現在までに再稼働したのは9基。東海第2など7基は審査に合格しても稼働せず、ほか9基が審査中だ。避難計画の実効性は多くの原発で議論の的になっている。判決を機に、全国で避難計画を総点検すべきだ。
水戸地裁の判決と同じ日、広島高裁は四国電力伊方原発3号機の運転を認める決定を出した。同機を巡っては運転差し止めの仮処分決定が2度出され、いずれも翻されるという異例の争訟となっている。住民による裁判が絶えないのは、原発に対する国民の不安の現れでもある。訴訟リスクを抱えているという面でも、原発が将来の安定的な電源とは言いづらくなっている。
国民的議論が必要
さらに今月、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)で核物質防護に不備があったことが判明するなど、事業者の管理問題も後を絶たない。政府はあくまで原発を主要な電源の一つと位置付けているが、その是非についても国民的な議論を高めていく必要がある。
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