最新の新型コロナウイルス関連の労働相談の現場では、派遣労働者から多くの相談が寄せられている。5月末に「生存のためのコロナ対策ネットワーク」が実施したホットラインでも、全体の約7割が、派遣労働者からの相談であった。
その後も、私が代表を務めるNPO法人POSSEには、6月に入って、派遣労働者からの相談が続々と寄せられている。主な相談内容は2つだ。「補償なき休業」と「雇い止め」である。
派遣労働においては、派遣元と派遣先が契約を結び、派遣元から労働者が派遣されるという仕組みだが、仕事がなくなり、派遣元と派遣先の契約が切れれば、それにともなって派遣労働者が働けなくなる。これを「当然のこと」、「仕方ないことだ」と思う人も多い。
だが、派遣先の仕事がなくなったからと言って、派遣労働者を簡単に雇い止めすることはできないし、休業補償を支払わない理由にもならない。すでに、厚労省はこうした事態を想定して、派遣元・派遣先それぞれに、派遣労働者の雇用を維持するよう呼びかけている。
今回の記事では、「派遣だから」と諦めなければ、使える制度があることを解説すると同時に、法的・社会的責任を果たさない派遣会社の問題を問いかけたい。
ホテルや小売店でまだまだ多い「補償なき休業」
まず、「勤め先が現在も休業しているが、一切補償がない」という問題について見ていこう。相談の多い業種は、客足の減ったホテルや小売店である。なかでも、百貨店などの小売店で、「もともと催事など、仕事があるときだけ販売員として派遣されるかたちだが、コロナでイベントが中止になったため、休業補償もされず、生活に困っている」という相談が多い。
こうした登録型派遣の場合にも、派遣労働者への休業手当が助成金の対象になる。厚労省は、派遣会社にたいして、6月16日にも新たな呼びかけをホームページ上に掲載し、以下のような事例に当てはまる場合、雇調金を利用して、派遣労働者に休業手当を支払うよう求めている。
このように、派遣先の事情で、派遣労働者を派遣できなくなった場合、派遣「元」が雇調金を利用して、派遣労働者の休業補償をすべきだ、と国も要請しているということだ。
なお、労働日が不確定な業種の場合でも、「昨年同時期や直近の月のシフトなどに基づいて労働日を設定し、休業日を決め、休業手当を支払」えば、助成の対象になる。
私たちのもとに寄せられる相談には、「派遣先の正社員には休業手当が出ているようだが、派遣の自分には出ていない」、「派遣先との契約が終了し、次の派遣先が見つかるまで、休業状態だが、何の補償もない」というものが多いが、これらに該当する方は、末尾の相談機関を利用しながら、派遣会社(元)に休業手当の支払いを求めてほしい。
実際に、登録型派遣で働く労働者が、休業手当を求め会社と交渉を行い、休業補償が支払われた事例もある。
参考記事:「非正規に広がる「補償なき休業」 「シフト制」や「登録型派遣」でも休業補償の義務」
派遣「先」にも求められる、派遣労働者への補償
次に、コロナを理由とした雇い止め(契約を更新しないこと)には、どれほど規制がかかっているのだろうか。現状では、「コロナの影響で」や「コロナによる減産で」と、あまりにも簡単に派遣労働者が切られている。業種としては、製造業で目立つが、他産業でも同様に、コロナを理由とした人減らしが、派遣労働者にたいしてはなお一層容易にまかり通っている。
だが、派遣労働者に実際働いてもらっている派遣先にも、その雇用を維持したり、雇い止めする場合にも十分な配慮が求められている。労働者派遣法29条の2では、派遣先にたいして、主に、以下の点が要求されている。
・派遣労働者に新しい就業機会を確保すること
・派遣会社に、派遣社員の休業手当等にかかる費用を支払うこと
つまり、派遣先は、たとえコロナによる減産で人員を削減しなければならないとなったとしても、その派遣労働者を別の仕事に就かせたり、あるいはグループ会社の仕事に就かせたりするなど、新たな就労先の確保に取り組まなければならない、と決められているのだ。だが、実際にはきちんと対応している派遣先は少ないだろう。
また、別の就労先が見つけられず、やむを得ず契約解除することになっても、派遣元に対して休業手当等にかかる費用を負担すべきとされている。
ところが、最近の相談でも、「派遣先との契約が終了し、次の派遣先が見つかるまでの間の休業補償を求めたが、派遣元は、派遣先からの支払いがないことを理由に拒否している」(スポーツジムの清掃、50代女性)といったものもあり、こちらも、派遣先が十分に対応していない様子が浮かび上がってくる。
そして、さらに派遣労働者を追い込んでいるのが、派遣先のみならず、派遣元からの雇止めだ。あるIT企業のエンジニアとして働く男性は、「派遣先との契約が4月いっぱいで終了し、次の派遣先を探している状態。コロナの影響もあって、なかなか決まらないが、派遣会社から、7月までに次の現場が見つからなければ、こちらとの契約も切らなければならないと言われた」という。
もちろん、派遣先が見つからなかったからといって、派遣元は即座に労働者を解雇できるわけではない。だが、くり返しになるが、労働者が声を上げなければ、このような現場レベルでの違法な運用がまかり通ってしまうのである。
参考記事:「「派遣切り」の多くは違法? 「本当」は厳しい派遣法を読み解く」
以上のように、派遣労働者にたいしても、本来であれば、休業中の補償や雇用の維持が求められているにも関わらず、「コロナだから」と、十分な説明・措置も取られないまま、生活に困窮する派遣労働者が後を絶たない。この点、派遣元・先ともに役割を全うしておらず、その責任は大きい。
派遣会社は、仕事がなくなっても派遣先を新たに見つけたり、労働者を訓練することで就労先を確保する機能が求められている。当然、派遣先がなくなっても簡単に解雇しないことが前提だ。そうでなければ、労働者は「間接雇用」によってただ「中間搾取」された上に、不安定な身分におかれるだけである。だからこそ、派遣法はここまで見てきたような規制を設けている。
まして、今回は国が助成金を用意してそれを促している。コロナだからと簡単に解雇する派遣会社は、社会的な「存在意義」がないといわざるを得ない。むしろ、労働者を搾取し、不安定な状況に置くだけの「社会悪」であるとさえいえる。
「派遣先から契約終了を言い渡され、派遣元も次の就労先を探してくれてはいるが、なかなか見つからず、その間は無給状態で困っている」という相談は、今後もますます増加することが予測される。もともと不安定な状態に置かれている派遣労働者に対しては、派遣元・派遣先ともに、十分な配慮をすべきであるし、労働者の側からもそれを求めてていく動きが、より一層必要になってくるだろう。
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