いまの時代のロボットたちは、工場などの管理された環境のなかでプログラム通りの作業をこなしている。だが、日常生活で活躍するロボットが必要なら、“未知”の状況への対応力をつけさせなければならない。そのためには、ロボットに「子ども時代」を送らせることが鍵になるのではないかと、ある心理学者は考えた。
TEXT BY MATT SIMON
TRANSLATION BY GALILEO
進化の観点から言うと、人間の赤ん坊は非合理的な存在に見える。何年ものあいだ大人に助けられないと生きていけず、特に何かの役に立つということもない。家事を手伝うこともできなければ、仕事にもつけない。
だが実際には、このように長い時間をかけて発達していくことは、自然界で最も素晴らしいヒトの脳にとって非常に重要である。単純な遊びの行為を通じて、子どもは世界を探索し、混沌とした世の中に適応していくのだから。
ロボットにも「子ども時代」が必要?
子どもはいろいろなところを走り回るが、ロボットは違う。現時点で最も高度に発達したロボットですら、その性能を十分に発揮できるのは、工場のように厳格に管理された環境のなかだけだ。ロボットたちはそこで、きっかり決められた作業をこなしている。
だが、ロボットたちは徐々に進化し、われわれの日常生活の奥深くまで入り込むようになりつつある。そして、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者アリソン・ゴプニックは、そうしたロボットは上手に「成長させる」のが賢明だと考えている。
「われわれが本当に必要としているのは、子ども時代のあるロボットかもしれません」とゴプニックは言う。「小さくて、頼りなくて、それほど力が強くなくて、ものを壊すとしても大した被害がない程度で、誰かに世話されなければならないようなロボットのことです。そうした存在を、現実に世の中に出て何かができるシステムに変えていくわけです」
ゴプニックが提案するのは、ロボットの従来の訓練方法からの脱却だ。
ロボットを訓練するにあたり現在一般的な方法のひとつは、人間がロボットのペースにあわせて動き方をひとつずつ教え、例えばあるオモチャの持ち上げ方を学ばせるというものだ。もうひとつ、ロボットにランダムな動きをさせて、成功したら報酬を与えるというアプローチもある。
どちらにしても、ロボットが格別に柔軟性を身につけるわけではない。特定のオモチャの持ち上げ方は教えられたとしても、別のオモチャのつかみ方も簡単に理解できることは期待できない。
これに対して子どもは、新しい環境や課題に難なく対応する。「外界を探索して、解決したい問題に必要そうな情報を探すだけではありません。遊びという素晴らしい行為もやってのけます。特に理由もなく外に出て、いろいろなことをしているのです」
未知への対応力は「目的のない遊び」で育まれる
子どもの遊びには、それなりの秩序がある。子どもたちは好奇心によって駆動するエージェントであり、脳のなかで世界の複雑なモデルを構築することで、学んだことを簡単に一般化できるようにしている。
それに対して、ロボットが(よいおこないをすれば点数が加算され、悪いおこないをすれば減点されるなどのように)厳密に点数化された目標から学ぶようプログラムされている場合、「通常どおりのこと以外の何か」をするようロボットが促されることはない。「常に子どものそばで行動をチェックする親がいるようなものです」と、ゴプニックは言う。
そうやって近くで注意を払い続ければ、子どもをハーヴァード大学に入れられるかもしれないが、その先の生活の準備はできない。「実際にそこに到達して、何か新しいことをしなければならないときに、途方に暮れて、次に何をすればいいかわからなくなります」と、ゴプニックは語る。
ロボットに好奇心を与え、目的のない遊びをさせることは、未知のものに対応させる際に役立つ可能性がある。
ゴプニックとその同僚たちは研究室で、これをどのように実践につなげるか解明しようとしてきた。子どもが外で遊びながら問題を解決していく方法を、どうにかして定量化する必要があったのだ。
そこで、ゴプニックたちは子どもたちを遊ばせてみた。しかし、たちまち状況は難しくなる。
「なにしろ相手は小さな子どもです」と、ゴプニックは言う。「ある物事について子どもたちが考えたことを尋ねてみると、子馬や誕生日についてのすてきな独り言を語ってくれるのですが、どれも筋が通っていません」
何の論理もない遊びが答えに導く
ゴプニックらは、カスタムデザインされた玩具とのコミュニケーションが、ひとつの解決策になると気づいた。例えば、子どもが上にブロックを積み上げたときだけスイッチが入るような玩具だ。
「われわれ自身が玩具を設計しているので、子どもたちが解決しなければならない問題が何であるかを理解しているし、その問題について彼らが集めているデータの種類もわかります。玩具の動きをコントロールしているのはわれわれなのですから」と、ゴプニックは言う。例えば玩具の動かし方について、子どもたちはどんな推論を立てているのだろうか?
同じ実験を大人でもやってみて、なかには大人より子どものほうがうまく解決できる問題もあるとわかった。特に、玩具の仕組みが風変わりな場合、子どものほうが遊んでいるうちに偶然、解決策を見つけやすいようだ。何の論理もなく遊んでいるように見える行為が、結果的に答えをもたらす。
こうした力をロボットに与えることができれば、機械と子ども、両方の学習の仕方をよりよく理解できるようになるかもしれない。
「ロボットをそう行動させるように訓練することで、われわれは子どもがどのようにそうした探求を行なっているか、より多くの洞察を得られるでしょう。そして子どもの行動を研究することで、どうすればロボットに同様の探求をさせられるかアイデアが湧くかもしれません」と、ゴプニックは語る。
いつか、家事を手助けしてくれるロボットが、研究室内の保育園で育つ日が来るかもしれない。そうした赤ちゃんロボットたちは、汚れたオムツの交換も必要なく、楽しい遊びだけを通して学習していくことだろう。
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